「な、なんだ?!」 突然辺りが暗闇に包まれる。いや、段々と闇が迫ってきていると言った方が正しいかもしれない。 なにか煙のようなものが辺りを支配した。 カンニング竹山は中島に寄り添いながら辺りをキョロキョロと見回す。 突然襲ってきた誰かは、こちらに反撃する隙を与えることなく撃ちこんでくる。 しかしこのままでは終わりだと思い、ボウガンで対抗しようと 二人の盾となっていたブロック塀から体を出した中島を銃弾が襲ったのだ。 それは中島の脇腹を抉り取り、ただでさえ不利な状況をもっと悪くした。中島の怪我は致命傷といえるくらい深かった。  「中島、大丈夫か!!?」  「い、今のうちに――」 そういわれて気がついた。何が起こったのかわからないが今がチャンスだ。 この闇に乗じてできるだけ遠くへ逃げればこの危機的状況から脱出できる。  「よし、中島!俺の背に――」  「け、けど…おまえも、怪我が――」 竹山は咄嗟に左上腕部を押さえた。中島が塀の外に倒れた時、 その中島を塀の中へ戻すため一旦外へ出たのだ。 その時飛んできた銃弾に腕を貫かれ、中島とともに負傷してしまった。  「こんなの掠り傷だ!早く――」 竹山が腹を押さえ塀に寄りかかる中島へ背を向けた時だった。  「いい、竹山さん。中島さんは俺が運ぶから」  「え?!」 気づかなかったのも無理は無い。ただでさえ闇夜で暗いのに、この謎の煙だ。 インパルス堤下敦がどこからか現れ、すでに中島の手をとり自分の背に乗せようとしている。  「ななななんだよ?!これおまえが?!」  「うん、竹山さんたちが襲われてるの見たから。いいから急いで!」 彼を信じていいのだろうか?、などという疑問は竹山には一切なかった。 それは信用の問題というよりも、藁にすがるような思いだ。 突如現れた堤下の指示に従い、堤下と中島、そして自分と三人分の荷物を持って走り出した。

走れば走るほど煙は薄くなり視界も開けてくる。転ぶかもしれないという心配も無くなり徐々にスピードを上げ、 100メートルほど離れた時にはもう煙の届かないところまで来ていた。  「あ、ありがとう――」 竹山は乱れた呼吸を整えながら、堤下にお礼を言った。 何がなんだかわからないが、助けてくれたことは事実。堤下の助けが無ければきっと撃ち殺されていただろう。  「竹山さん!大変だ!中島さんが――」 アスファルトの上に横たわる中島の顔は青白い。 その出血量は半端なものではなく、助かる見込みが無いことは明らかだった。 中島を背負っていた堤下の服にはべっとりと血がついている。  「な、中島!おい!!おまえ死ぬな!!」  「た、竹山――」 中島の息遣いは荒い。声を出すこともままならないようだ。 一秒一秒時が刻まれるたびに中島の命の灯火は弱くなっていく。  「もういい!おまえ喋るな!!」  「竹山――」 ただ竹山の名を呼ぶだけの中島はもう生気のかけらも無かった。 そんな中島を見つめる竹山の目からは涙が溢れていた。  「竹山さん、ごめん――」 呆然と立ち尽くす堤下が消え入りそうな声を出す。竹山は首を横に振った。  「助けてくれて、嬉しかった。謝らなくていいから、だから――」 突如竹山の首輪が無機質な音を発しだした。それは竹山の死を目前にしていることと、 中島の命が消えたことを意味している。  「堤下!絶対に相方を守れよ!俺が出来なかったぶん、死んでも守れ!」 死がすぐそばに迫っている男が出す声とは思えないくらい、その叫びは強く大きかった。 涙で顔を濡らす堤下は竹山の言葉にはっきりと頷く。  「わかったらいけ!死ぬとこなんか見たくない!はやく相方のとこへ行ってやれ!」 無言で何度も何度も頷き、竹山に背を向け再び闇へと戻っていった。

――カンニング死亡

【残り61組】

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