ナップザックの一番上に入っていた筒状の物を、塚地は持ち上げてしげしげと眺めた。隣に添えられていた木製の箱を開けると、そちらには針のような物が10本ほど入っている。どうやら、支給されたのは吹き矢らしい。  一応武器ではあるが、銃火器と比べると射程も殺傷力も見劣りする。こんな物が、本当に役に立つのか――  そこまで考えた所で、塚地は今までとは別の恐怖感が湧き上がるのを感じた。  今、武器で戦う事を前提に考えなかったか?  それはつまり、他人を――  塚地は慌てて頭を振り、その思考を追い払った。 「……塚っちゃん? どうかした?」 「あ?」  突然おかしな行動を取った塚地を見ていたのか、鈴木が心配そうに声を掛けた。 「いや、どうもせえへんよ」 塚地は出来るだけ平静を装って振り向く。 一瞬、今考えていた事を鈴木に話そうかと迷ったが、それは先送りする事にした。今は他にやる事がある――鈴木の武器の確認だ。 「それより鈴木、お前の武器何やった?」 「ああ……」  塚地が訊ねると、鈴木は溜息混じりにそれを引っ張り出した。 硬い布地にプリントされた、茂みと同色のマーブル模様。 「迷彩服か……」  今の服(鈴木はスーツ、塚地は夏用学生服)よりはずっと丈夫だし、多少は身を守る役に立つだろうが、銃で撃たれてしまったら一溜まりもない。第一、何故ヘルメットが入っていないのだろう。これでは頭部も無防備なままだ。  吹き矢と同じで、どうも使えない“武器”である。 「……ん?」  いや、違う。  鈴木にはあるではないか――芸人としては欠点にしかならないが、今、この場では、最大限にその威力を発揮する武器が。 「そうや……。でかした鈴木! それ、当たりやで!」 「え? なんでだよ」  鈴木は塚地が喜んでいる理由がわからず、怪訝そうな顔をする。 「ええか鈴木、お前はもう既に、立派な武器を持っとるんや」 「ええ!?」  塚地は鈴木を頭の天辺から爪先まで眺め、満足そうに頷いた。 「お前の武器はな……その『圧倒的な存在感のなさ』や!」 「……ほめてないよね、それ」  鈴木はがっかりした様子で呟く。 「アホ! 敵に見付からんってのは大切な事やで。いざとなったら、相手の背後に回りこんで、得意の関節技でもかけたったらええ」 「無理だよそれ!」 「無理とか言って諦めてる場合ちゃうやろ! ちっとは前向きに考えろや……俺もこれ使って援護したるから」  その言葉に鈴木は期待するような表情を見せたが、次の瞬間、大袈裟に肩を落とした。 「なんだよ、全然強そうじゃねーじゃん」 「そういうわけだから頼んだ鈴木!」 「だから無理だって!」  鈴木は気付いていなかったが、この時塚地は、ほんの少しだけ安堵していた。  自分のために、他人を殺せるか――その結論を出す時が、先送りされたような気がしたから。  しかし、この時でさえ、ゲームは着実に進行している――忍び寄る足音に、二人はまだ気付いてない。

本編  進む

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