「今思ったんだけどさ。」 ジャイがタバコの煙を吐き出しながら言った。 「一寸、耳貸して。」 ジャイは高橋の耳元に顔を寄せた。 「もしもの話だよ。もしプロデューサーの奴らがそこ迄考えていなかったら、このゲームを盛り上げるいいヒントをあげる事になっちゃうから。」 ジャイは、ここにも仕掛けられているだろうマイクやカメラに、声を拾われない様に、唇の動きを読み取られない様に、ひそひそ声で、口元を手で隠しながら言った。 「最後の一組迄殺し合えって奴ら、言ってたけどさ、最後の一組になったら、何が待っているんだろう?」 「え?」 「その最後の一組は、無事に家に帰してやるなんて、奴ら一言も言ってないよね。」 「...」 「最後の一組になったら、今度は最後の一人になる迄殺し合いをさせるとかさ、ピン芸人だったら、それはそれで別に新たな殺戮の場を設けるとかさ。公開処刑とかね。俺の、聞かれたらマズイ話は此処迄。」 今度は高橋が、ジャイの耳元に顔を寄せ、口元を手で隠し、ひそひそ声で話し始めた。 今野の承諾無しにこの話をするのは一寸躊躇ったが、思い切って話す事にした。 「俺と今野で最初に話したんだけど、このゲームをぶっ潰そうって。でもやり方がわからなくて、仲間を探してて。ジャイさん、この話、乗らない?俺も、聞かれたらマズイ話は此処迄。」 「いいのかよ、俺なんかが...俺、もう何人か殺して、番組にある意味貢献しちゃってるのにさ。」 もう此処から先はマイクで声を拾われても意味がわからないだろうと、普通に...と言っても小声で、何時もの笑顔を浮かべて言った。 だけど、その眼からは、闇しか見えない。だからこそ...高橋は力強く、でも小声で、 「だからだよ。それに死ぬのはジャイさんだけじゃないよ。」 「...そうだったな。俺も、今の所いい案は思い付かないけど。続きは、あいつらと今野君と合流してから、アジトで話そう。あの緑の家の中には、マイクもカメラも仕掛けられてないみたいだしな。」 三人も俺達も無事、生きて合流出来たら...二人共、そう思った。 「それにしてもジャイさんさあ...息がヤニ臭い。」 「悪かったよ。」 ジャイは又タバコに火を付け、不貞腐れ気味に言った。 今野、スギ、ゆうぞうは用心深く、緑の家に戻った。 用心しながら、ドアを開けた。家の中には、誰も居なかった。壁には、マシンガンの弾丸が食い込んでいたが。 「取り敢えず、二人を探さないと。」 今野が言った。 「ああ、俺達が生きている以上、二人共生きている事は間違いないんだけどな。何か手掛かりがあるといいんだけど。」 ゆうぞうが言った。 「此処の茂み、掻き壊されてるね。確か、高橋さんとジャイ、こっちの方へ走って行ったし。」 スギが見つけた。 三人は、茂みを抜け、道に出た。 が、道の左右、どっちの方向へ走っていったか、わからない。 「せめて、足跡でもあったら...」 とゆうぞうが言った。 「取り敢えず、こっちの方へ行ってみる?」 と言う今野に、スギが、 「否、こっちだ。多分これ、ジャイの血だ。あいつ、手怪我してたから。」 と、道にこびり付いている血痕を指した。 「もしかすると、はなわさん、この跡を着けて行ったかもしれない。」 三人は、無言で、でも襲撃に遭わない様気を付けながら、走り出した。 「そう言えば、顔の傷、綺麗に跡形もなく治ったね。」 高橋は右頬を撫でた。確かに、傷の凹凸もなく、何時もの肌だった。 「いやー、良かったね、せっかくの男前がねえ。」 「だーれーが、やったと思ってるんすか。」 「俺。」 「全く。それに相方がああだから、男前に見えるだけ。実際もてないし。タバコ、一本貰ってもいい?」 「あれ、タバコ吸わないんじゃなかったっけ?」

「うん...何となく吸ってみたくなってね。」 三人の事、それからさっきのジャイが言った事。高橋は不安感を紛らわせたくて、吸えないタバコを吸ってみたくなった。 中学の時以来だな、と高橋は思った。 ヤンキーになったり、暴走族に入ったり、シンナー吸ったりする程ではないが、一寸悪い事をしてみたくなる年代だ。 と言っても、仲間内で缶ビール一本位で盛り上がったり、拾って来たエロ本を見てわーわー言ったりと、大人になった今となっては、他愛の無い事だが。 その時も、試しにタバコ吸ってみて、思い切りむせて、吐き気がして、それ以来吸ってなかった。 そう言えば夜中こっそり家を抜け出して、白ポストの中を漁った事もあったな。そう思いながら、タバコに火を着けた。ゴミしか入っていなかったけど。 吐き気こそしなかったが、思い切りむせた。 「無理矢理タバコ吸ってる、中坊みたい。タバコなんて、おぼえない方がいいよ。」 むせながら高橋は、 「上から物言うね。」 咳が治まると、高橋が、 「この十年か二十年位で、白ポストって、見なくなったよね。」 「白ポストかあ...」 ジャイは遠い眼をした。 「あれでしょ、未成年に有害な書物・雑誌類は此処に捨てて下さいとか何とか書いてあるポストでしょ?で、漁ってみるとゴミしか入ってないの。」 「あ、ジャイさんもやったんだ。」 「大人になった今考えると、ゴミ箱代わりにされるの、当たり前なんだけどね。だからだろうね、白ポストなくなっちゃったの。」 それをきっかけに、二人は猥談を始めた。 白ポストで、何かコント出来ないかな...今の若い子にはわからないか。 ジャイはそう思った瞬間、はっとした。 俺...まだコントやりたいって思っているのか...あれだけ、人を殺しておいて。 否、今は考えるのをよそう。ジャイは気を紛らわす様に、敢えて猥談に意識を向けた。 高橋さんだって、不安で、走り出しそうな気持ちを紛らわす様に、猥談に意識を向けているんだから、と。 「あれ、あっちから走って来るの、今野君じゃない?」 今野、スギ、ゆうぞうが駆け寄って来るのが、見えた。 「本当だ。」 高橋は今野に駆け寄った。ジャイは涼しい顔をして座っていたが。 「良かった、無事で、本当に。」 喜ぶ高橋に今野はむっとした様な顔で、 「こっちは必死に探してたのに、何楽しげに話してたんだよ。」 スギは座っているジャイに駆け寄った。 「おせーよ。」 と言うジャイに、スギはツッコミを入れる時の様に頭を叩いた。 「お前の方からも歩み寄れよ。」 「ひでーな、怪我人に。」 「あ、そっか、怪我、大丈夫か?」 「今の、スギのツッコミの方が痛てえよ。」 今野は、高橋が持っているサブマシンガンに気が付いた。 「パーケン...」 「ん?」 「否、何でもない。」 何でそれを持っているの?誰か...多分はなわさんを、殺したの?その言葉を飲み込んだ。 五人は、緑の家に向かって、歩き始めた。 ジャイは今野の服の袖を引っ張って、他の三人に聞こえない様に声をひそめて言った。 「高橋さんは命がけで俺を守ってくれた。で、俺がはなわさんを殺した。」 それだけ言うと、ジャイは又涼しい顔をした。 それだけだと状況はわからない。でも、ジャイが何を伝えたかったのかは、わかった。だから今野はただ、こくん、と頷いた。でも、 「それにしてもジャイさんさあ...息がヤニ臭い。」 「悪かったよ。」 ジャイは不貞腐れ気味に言った。

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