耳をつんざくようなマシンガンの轟音に、吉田はハッと目を覚ました。 しかし怠さから身体を起こすことが出来ない。目をきょろきょろさせ、ようやく此処が建物の中だということに気付いた。 段々と五感がはっきりしてくると、硝煙の臭いが漂ってきた。それと同時に、ゆっくりとした革靴の足音も聞こえた。 足音は段々と近くなり、部屋のドアの前でぴたりと止まった。 ……さっきマシンガンを撃った人物が、目と鼻の先に居る。 吉田がゆっくりと上体を起こした、その時――。
ガチャガチャと部屋のドアノブが乱暴に回された。だが鍵が掛かってあるのか、ドアは開かなかった。 それでもドアの向こうの人物は執拗に、先程より激しく、苛ついたようにドアノブを回し続ける。 吉田は恐怖からうっかり声が出ないように、慌てて手で口を押さえ息を潜める。 気付かれたら最後、助からない。
――ドンッ!
「………っ!」
今度は大きな打撃音と共に、ドアが大きく軋んだ。思わず立ち上がり後ずさりをすると、ソファの腕に躓き尻餅を着いた。 その状態のまま尚も後ろに下がると、壁に背中が当たった。扉の向こうから足で蹴っているのだろう。 何度も、何度も蹴られたドアは、次第にヒビが入り、木屑が散り、白いペンキの塗装が振動に合わせて剥がれていく。 メキメキ、と音を立て壊れていくドア。多分もう二、三発蹴りを入れれば、完全に壊されてしまうだろう。 ドアが壊れていく音に、吉田は目を瞑り耳を塞いだ。心臓が今まで経験したことが無いくらいに大きく響く。 すると突然、ドアを蹴る音がぴたりと止んだ。 ちっ、という舌打ちと共に、再び足音がし、階段を下りる音が聞こえ、段々遠ざかっていった。 どうやらあと少しの所で諦めたらしい。
助かった―――?
静寂が訪れた部屋の中で、吉田は乱れた息を整えながら何とか精神を落ち着かせようとした。 ふと、二つ隣の部屋から物音が聞こえた気がした。 脱水症状で一時的に弱った身体を何とか支えながら部屋を出ると、そこには血の足跡があった。 吉田はその足跡をゆっくり目で追う。一つの小さな部屋からその足跡が始まっていた。 その部屋のドアは開けっ放しで、生臭い血の臭いが廊下中に広がっていた。 手で壁を伝いながらよろける足を引っ張り、部屋の中を覗いた。そこには、二人の人間が椅子に座っていた。
「あ……松本さん、西川さん!」
椅子に座ったままぐったりとしている二人に駆け寄り、身体を揺する。
「松本さ、……っ!」
ぬるりとした感触が手を伝い、驚いて自分の手の平を見る。 そこには、赤黒い血がべっとりと付いていた。 吉田は息を呑み、ゆっくり手から視線をずらしその光景を見つめた。 身体に無数の穴を開けられ、机に突っ伏しているレギュラーの二人。自分を此処まで運んできてくれた人たちだ。 床には大きな赤い水溜まりが出来ており、机の端からピチャン、ピチャンと血が滴り落ちている。 壁やガラス窓には血の手形がいくつも付けられ、苦しんで死んだであろう形跡が残っていた。 そして、ようやく吉田は二人が「死んでいる」事に気付いた。

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