ゲーム開始後の、翌日の夜、都内某所。 18KIN大滝裕一は相方の今泉稔の自宅のチャイムを何度も押した。 今日、都内でライブがあった。が、今泉は来なかった。 何の連絡も無く。 勿論、携帯に電話した。何度も。でも、出なかった。 単独ライブでも無く、他にも何組か芸人が出るので、まだ良かったが、それでも、中には自分達を目当てにしてきた客も居た筈だ。 楽屋の雰囲気も、大滝を苛立たせた。 仲間や同じ事務所の芸人を心配してうな垂れている芸人や、そんな相方を宥めたり励ましたりする芸人が殆どだったが、中には、平気で誰が生き残るか、賭けをやっている芸人達も居た。 誰も表立っては言わないけど、と、大滝は思った。あの殺し合いに参加させられている芸人が全員死んだら、自分達の出番が増えると思っている奴も大勢居るんだろうな。 ギリギリ迄待った。今泉はとうとう来なかった。 マネージャーと相談し、今泉が急病の為出演出来なくなった、と言う事にして、大滝は反吐が出そうな楽屋を後にして、コンビニに行った。 弁当と、カップのインスタント味噌汁を買うと、今泉の自宅に行った。 何時知り合ったかも思い出せない、それ位古い付き合いだ。大滝には今泉が何をしているのか、大体予想が付いた。 どうせ昨夜から、家から出ないで居るに決まっている。糞、ドア蹴り破ってやろうか。 チャイムを何度も押して、そんな事を思い始めた頃、やっと、今泉がドアを開けた。 「裕ちゃん...ごめん、今日ライブがあったのに...」 「別に、そんな事責めに来たんじゃねぇよ。上がるぞ。」 ショックの余り一晩で白髪になるって話は本当かどうか知らないけど、と、大滝は思った。もう一晩置いといたら白髪になるな。 ゲームが開始してそれ程時間は経っていない。が、そう思わせる程、その短時間で今泉はやつれ、憔悴しきっていた。 大滝の思った通り、今泉はバトルロワイアルを見ていた。 食い入る様に、ブラウン管を見つめていた。さっきのチャイムだってなかなか気が付かなかった位だ。何遍も鳴らした携帯、その着信音にも気が付かなかったんだろう。 そう、この番組を見ているのは面白がっている奴だけじゃない。仲間の安否を心配して、見ている芸人も大勢居る。 エンタには二度出演して切り捨てられた。じゃなかったら、自分達も居たであろう場所が、ブラウン管の向こうに映し出されている。 「カンニングも...(いつもここから)山ちゃんも...ヒロシ君も...死んじゃったよ。」 呟く様に、うわ言を言う様に、今泉は言った。 「ああ、知ってるよ。嫌でもそう言う話は入って来るからな。お前、山ちゃんとヒロシとは、一緒にバンドやってたもんな。」 「皆、俺の知らない人になっていったよ。(いつもここから)菊ちゃんも...長井さんも...インジョンのジャイさんも...」 まるで、大滝の言葉が聞こえていない様だった。 大滝は苛ついて、リモコンでテレビの電源を切った。 「何するんだよ!裕ちゃんは心配じゃないのかよ!!」 今泉は甲高い声を荒げた。 「落ち着けよ!いいか、よく考えてみろ。こんな番組を見てる奴が居るから、何時迄も殺し合いが終わらないんだ。誰も見なくなったら、視聴率も下がって、こんな番組も打ち切りになる。」 今泉はうな垂れて、唇を噛んだ。 「俺だって、正直、気になるよ。俺達二人が見なくなった位で、視聴率がそう変わるとは思えないけどさ、でも、俺は出来るだけ仲間の芸人や、ライブに来てくれたお客さんに呼びかけるつもりだよ。こんな番組見るなって。それが、俺達が出来る、戦い方だと思わないか?」 「俺達が...俺が出来る戦いか...」 今泉ははっとした様に顔を上げ、立ち上がって台所へ行くと、包丁を持ってきて、テレビのコードをぶち切った。 「何もそこ迄しなくても...」 「否、いいんだ、これで。」 そう言う大滝も、最初の内は見ていた。でも、カンニングが殺された時点で、思わずテレビのブラウン管をバットで叩き壊した。 夜だった為、騒音ですぐに大家に叱られた上、砕けたブラウン管の破片の掃除が大変だったが。 「裕ちゃんごめん、せっかく来てくれたのに。俺、一人で考えたい事があるんだ。」 「わかった。ただ、昨日からどうせ何も食って無いんだろ?明日はオフだし、弁当買って来たから、それ食って、酒でも飲んで、ゆっくり寝ろよ。」 「裕ちゃん、ありがとう。」 今泉は両手で大滝の左手を握り締めた。 「気持ち悪りぃな。じゃあ俺、帰るから。」 「じゃあね、裕ちゃん。」 さよなら、裕ちゃん。 今泉は、玄関から出て行く迄ずっと大滝を見つめ乍、心の中で呟いた。 大滝は家を出た後、今泉の「俺が出来る戦い」と言う言葉と、左手を握り締めた事が引っかかっていたが、自宅に戻った。 俺達が出来る戦いじゃなくて、俺が出来る戦い、確かに稔はそう言った。
大滝が帰った後、今泉は景気付けにと缶ビールを一本、飲み干した。 それから大滝が買って来てくれた弁当と味噌汁を食べると、パソコンを立ち上げた。 流石にヤフーやグーグルじゃ検索してもそう簡単に出て来ないだろう。でも、そこのリンク先を次々と飛んで行けば。 今泉がそのホームページに辿り着いたのは、明け方だった。 これだったら、東急ハンズで材料は揃うな。 そのページをプリントアウトした。 ただ東急ハンズの開店迄まだ時間はあった。少し、寝るか。 これが最期の酒だな。そう思い乍一気に缶ビールを飲み干すと、仮眠を取った。
開店と同時に東急ハンズに行き、材料を買って、家に帰った。 それを慎重に混ぜたり等し乍、酒を飲む為に買って来たひょうたんに詰めた。 想像していたよりは、簡単に出来た。 ホームページには周囲1km位被害が及ぶと書いてあったが、何せ、明日には閉鎖してるか、移転していそうな、怪しげなサイトだ。実際の所どの程度の破壊力かは、わからない。 でも、人一人殺す位は出来るだろう。 否、二人だな。俺も死ぬんだから。 今泉は狂いかけていたのかもしれない。 裕ちゃんはああ言っていたけど、そんなのまだるこっしくて、待っていられない。今なら未だ間に合う。未だ後輩や仲間の芸人も何人か生きている。今、やらなきゃ。 今泉はひょうたん型の爆弾を鞄に入れると、先ずナベプロに行き、事務所を辞める手続きをした。 事務所からは引き止められたが、もう芸人を辞めたくなったとか、就職先も実は昨日決めたとか、そう言って誤魔化した。 そして、ナベプロを後にした。 相方が不祥事を起こせば、不祥事を起こさなかった方の芸人生命も危うくなる。 でも、もう俺はナベプロとは関係の無い人間だ。 もう俺は、18KIN今泉稔じゃないんだ... 裕ちゃんなら、ピンでもやって行けるだろう。ネタ考えていたのも裕ちゃんだし。俺以上の相方だって、きっと見つかるさ。 今泉は一旦立ち止まって、空を見上げ乍、そんな事を思った。 もうこうして、空を見上げる事も無いんだな。 それから、日テレに向かって、歩き始めた。
収録がある振りをして、日テレ内に入った。問題は、そこから先、如何にして出来るだけ関係者が居る部屋の近く迄辿り着くかだ。
流石に重役やそれ以上のクラスの部屋の中へは行けないだろう。でも関係者の中でも、所謂お偉いさんの一人でも殺せば、日テレ内でも騒ぎになり、こんな番組所では無くなるだろうと。 この爆弾の威力がどれ程の物か、本当にサイトに書いてあった通りか、わからない。 さっき受付に居た女性。彼女も巻き添えを食らって死ぬかもしれない。 自分も死ぬからって無関係な人を巻き込んでいい訳じゃないけど... ここ迄来たからには、前進するしかない。ごめんなさい。 今泉は心の中でその女性に土下座すると、迷路の様なその建物の中を、後を着けられない様に歩き続けた。 そう、テレビ局の内部は、迷路の様に、複雑に入り組んだ様に作られている。テロリストに占拠され、放送を流されるのを防ぐ為だ。 芸人が自爆テロを起こすなんて、考えてもいなかっただろうな。 『バトルロアイヤル製作実行委員会』。そうプレートに書いてドアに貼り付けてある部屋を見付ける迄、どれ位時間がかかっただろう。その間に、何遍も、足音等を聞き付けて、隠れたりもした。 隠れる度に、テレビ局の内部が迷路状に作られてて良かったと、思った。 この部屋には所謂お偉いさんは居ないだろう。でも、多分、此処でも爆破されれば、番組は中断されるだろう。 多分IDカードがなければ中には入れないだろう。でも、この部屋のドアの前でもこの爆弾に着火すれば誰かは死ぬだろう。 今泉は鞄からひょうたん型爆弾とライターを取り出した。多分入れないだろうと思いつつ、念の為にドアの分に手をかけた時、背後から忍び寄って来た男に、タオルで口と鼻を塞がれた。 「...!」 タオルに染み込ませてある睡眠薬。今泉は声を立てる間も無く、眠りに落ちた。 日テレ側とて、こう言う事態が起こるのではないかと予め予期していた。その為に雇われたその手のプロの男。今泉に気付かれない様に後を着ける事など、雑作も無い事だった。 男は念の為今泉の手足に拘束具を嵌め、猿轡をすると、誰も居ない、何時ものエンタの楽屋へ担いで行った。 それから五味に、今起こった事を簡単に携帯で伝えると、 「詳細はメールで送りましたので。」 「ごくろう。」 五味はメールを読んだ。 18KINか...こんな事する奴は居ると思っていたが、どうせなら、もっと派手な、視聴率が取れそうな奴がやれば良かったのにな。 五味は現場の、日テレの関係者に指示を出す為、携帯をかけた。

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