大滝はまた今泉の自宅のチャイムを押し続けていた。 さっきナベプロから今泉が事務所を辞めたとの連絡が入った。 慌てて携帯に電話した。何度も。でも、出なかった。 糞、今度こそドア蹴り破ってやろうか。 ドアを蹴り破る迄も無かった。鍵は開いた侭だった。 俺が帰った後、鍵もかけなかったのか...無用心だな。 「おい、稔、上がるぞ!」 返事も無く、誰も居ない無人の部屋。 「ったく、無用心だな。」 取り敢えず、此処で今泉の帰宅を待つ事にした。他に、どうしようも無い。 芸人を辞めたくなったとか、もう就職先も決まったなんて、嘘に決まっている。芸人を辞めたくなったはともかく、就職先が決まったなんて、昨日のあの様子からして、それは無いだろう。 取り敢えず話し合って、事と次第によっては俺もナベプロを辞めるか。 大滝がポケットからタバコとライターを出した時、灰皿に、明らかにタバコの灰では無い、紙の燃え滓の様な物がある事に気が付いた。 すっかり燃やし尽くされており、そこにかつて何が書いてあったのか皆目わからないが、何故か嫌な予感がした。 今泉は自宅を出る前、念の為にプリントアウトした爆弾の作製書を燃やしていた。 その時大滝の携帯が鳴った。ディスプレイには今泉の名があった。 「おい、稔!」 「バトルロワイアルって知ってる?」 受話器の向こうの声は、聞き慣れた、他の誰とも間違い様の無い今泉の甲高い声ではなかった。 「お前...誰だ?」

「日テレの、エンタの者だよ。君の相方の...おっと、事務所を辞めたから元相方の小泉君だっけ?の携帯を借りているけどね。」 「今泉だ!それに、元相方じゃなくて今でも相方だ!!」 「いやあ失敬失敬。その彼がうちで自爆テロをしようとしてねぇ。ま、幸い未遂で済んだんだけど、そんなに人が殺したいのなら、特別に彼もバトルロワイアルに参加させてあげようって事になってねぇ。」 大滝は灰皿の燃え滓を見つめ乍、 「...で、稔は...今泉は無事なんだろうな!」 と言うのがやっとだった。 「まあまあ大声出すなよ。しっかし、君も君の相方君同様、身勝手だね。こっちは一歩間違えば無関係な人も死んだかも知れないのにねぇ。」 「お前らがそんな殺し合いなんてやらなければ、今泉はそんな事はしなかった。」 大滝は、努めて冷静にそう言った。 「まあいいさ、こっちも忙しくてさあ、君と話し合う暇何て無いんで、用件だけ伝えるよ。今から6時間以内に、日テレに来れば、18KIN再結成って事で、君もバトルロワイアルに参加させてあげるよ。」 「行かなかったら?」 「彼をピン芸人としてバトルロワイアルに参加させるだけさ。返事は聞かない。君が来なかったら6時間後に連行するだけさ。じっくり考える事だね。彼がわざわざ君に迷惑がかからない様、事務所を辞めた好意を無にするか否かね。」 「6時間、だな。6時間は、今泉を連行しないな?」 「ああ。それと、彼は無事だよ。ただ、ぐっすり眠って貰ってるんで、声は聞かせてあげられないがね。用件は以上だ。」 携帯は、一方的に切られた。 選択肢は二つ。 でも実質は一つだ。あいつ一人で行かせられるかよ! 大滝は時計を見た。時間は十分にある。 大滝はタバコを吸った。これが最期のタバコかも知れないと思い乍。 タバコを吸い終えると、今泉の自宅を後にした。

「睡眠薬がよく効いているので大丈夫だとは思ったが、念の為に、少々手荒な事をしたがね。」 何時もの...と言っても二人は二回しか来た事が無いが...エンタの楽屋の長椅子の上で、今泉は両手足に拘束具を、口には猿轡を嵌められて横たわっていた。 その長椅子の傍には、屈強そうな男が弄ぶかの様に拳銃をいじっていた。 「本当に、今泉は生きているんだろうな。」 悪夢でも見ているかの様に、今泉は時折、ピクリと動く。生きている事は間違いないだろう。が、大滝は念の為に、此処迄自分を連れて来た男に聞いた。 「勿論。じゃなかったら、バトロワに参加させられないからね。腕でも触って、脈があるかどうか、確かめてみるかい?」 大滝は、脈を確認すると言うより、握り締める様に今泉の腕を掴んだ。 「じゃあ君もバトロワに参加するかい?」 「その為に此処に来たんだ。」 「そう、相方の御好意を無にするわけか。じゃあ都合上、君にも、現地に付く迄眠ってもらうよ。」 男は大滝を椅子に座らせると、Tシャツの袖を少し捲くり、血管を浮き上がらせる為ゴムバンドを巻いた。抵抗するわけにはいかなかった。長椅子の傍の、屈強そうな男が今泉のこめかみに銃口を押し当てていた。 「ただの麻酔だよ。少しちくっとするけどね。」 麻酔を射たれ、大滝は瞬時に眠りに落ちた。

18KIN連行

【残り36組】

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