「おい、稔、そろそろ起きろよ。」 「あ...うん。」 今泉は、大滝の声で眼を覚ました。 そっか、昨夜ライブの後、オンバト収録の為広島に来て、このビジネスホテルに泊まったんだっけ。 隣のベッドで寝ていた大滝はもう、支度を済ませていた。 それにしても悪趣味な部屋だな、と今泉は思った。昨夜は疲れ切っていたから何とも思わなかったけど。 壁も天井も床もベッドも灰皿等の調度品迄全て、暗い緑色だった。 だからあんな、嫌な夢を見たのかな。夢にしちゃ随分生々しかったけど。でも俺にそんな度胸、あるわけないもんな。 今泉がそう思いかけた頃、 「夢じゃねぇよ。」 大滝は機械的な声で、そう言った。 え...じゃあ、こっちが夢? 今泉は飛び起き様としたが、緑のベッドは液体化し、その中へ沈み込んで行った。 チャポン、と、水音が聞こえた。 「稔!この腕をつかめ!」 大滝は上半身を緑の水の中へ突っ込み、沈み行く今泉に手を伸ばした。 今泉は、これが悪夢だという事に気が付いた。そして、さっき迄夢だと思っていた事が現実だという事も。 でも... これは夢だ。でも、夢だけど、今ここで裕ちゃんの腕をつかまなきゃ駄目だ! 夢だとわかりきっているのに、何故かそんな気がして、今泉は必死に手を伸ばし、大滝の右腕をつかんだ。 だけど、あたかも緑の水に溶けていくかの様に、今泉の身体は輪郭を失って行った。 大滝の腕をつかむ右手。その右手も輪郭を失って行く。 身体で辛うじて輪郭を保っていた、大滝の腕をつかむ右手の小指も消え、完全に水中に消え去った時、今泉は本当に眼を覚ました。

眼を覚ましてから見た風景は、テレビで見た物と相違なかった。 学校の教室、黒板の前にいるプロデューサー。ただ、銃を構えた屈強な兵士とおぼしき人物は三人しかいない。 バトルロワイアル開始と違い、今泉一人しかいないのだ。三人でも十分だろう。 そう、教室には、プロデューサーと兵士以外は今泉だけだ。その隣に大滝は、いない。 当たり前だよな、俺もう、18KINじゃないんだもの。自爆テロの、途中迄しか記憶がない故、今泉はそう思った。 そっと首に手を当ててみると、やっぱり首輪がはめられていた。 「やっと、眼を覚ましてくれた様だね。えーっと、小泉君だっけ?」 「...今泉です。」 面倒臭そうに話すプロデューサーに、今泉は控えめに言った。 「いやあ、失敬失敬。君がしでかした事、覚えているかい?」 「はい。」 さっき、夢の中で嫌になる程反芻したから。 「そんなに人が殺したいなら、特別にバトルロワイアルに参加させてあげようって事になったんだけどさあ、ルールとか、一々説明するのも面倒でね。知っているよねぇ?」 「...はい。」 場所が教室だからかな、つい、教師に対する様な口調になるな、と、思った。 「ただ、もう芸人の数も減っている事だし、君達は場合が場合だから、ハンデを付けないと不公平だから、君の相方の...大滝君だっけ?は、全く違う場所からスタートして貰う事にしたよ。」 今泉は一瞬言葉を失った。 裕ちゃんもいるの?何故?俺はもう事務所も辞めて18KINじゃないのに?俺のせいなの?俺のせいなんだろうな... 「勿論、首輪は連動してるから、片方が死ねば自動的に相方も死ぬ。ビッキーズの死に様は君も見たよね?あんな感じで。だからお互いに合流出来ないと、突然君が死ぬかもしれないし、君が死んだら、いきなり君の相方も死んじゃう事になるね。」 「ちょ...ちょっと、待って下さい!裕ちゃ...大滝は関係ないじゃないですか!」 「んー、でも、彼は自分からバトロワに参加させて下さいって言ってきたからねぇ。せっかくの、君の御好意を無にしてね。ま、つべこべ言わないで、これ持って、正門から出て行ってくれないか?」

自分が死んだら大滝も死ぬ。兵士らしき三人の人物に銃を向けられ、今泉は黙ってナップザックを持って正門から出て行くしかなかった。 正門を出て、ナップザックの中の武器を確認した。案の定、自分が作ったひょうたん型爆弾だった。 俺のせいで、裕ちゃん迄... 今泉は唇を噛み締めながら歩き始めた。 実は大滝は隣の教室にいた。 大滝に「都合上眠ってもらう」というのは、二人を引き離す為、こちらの隙を見て合流する為の、何らかのサインを今泉にそっと渡されたり等させない為だ。 1%でもその可能性があったら、握り潰さなくてはいけない。 大滝が麻酔から覚め、今泉が聞いた事と似たような説明を聞き、裏門から出て行ったのは、今泉が出て行ってから約十分後だった。 大滝の武器は、金メッキの、磁気ネックレスだった。

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