血生臭いな。 裏門から出された大滝は、まずそう思った。 もう生き残っている芸人は少ないってプロデューサーの奴、言ってたけど、俺が生きている以上、少なくとも稔は生きているだろう。ヤス(安井順平)、生きてるかな。 だけど次の瞬間、今泉の言葉を思い出した。 「皆、俺の知らない人になっていったよ。」 そっか、生きていたとしても、俺の知らないヤスになっているかもしれない。俺がヤスを殺さなきゃいけない事になるかもしれないし、ヤスに俺が殺されるかもしれない。 この状況なら、何でもありだ。血の臭いと死臭で満ちているこの地でなら。 この先、否が応でも死体を見るだろう。多分、知り合いの芸人の死体も。 自分も今泉も死体になるかもしれない。それも、別々の場所で、お互いに会えないまま。 生き残れるかここで死ぬかわからないけど、稔と会う迄は、死ぬわけにいかないな。 そう思いながら歩いている矢先、大滝は、三つの屍を見た。その内一人は、よく知っている、親しい芸人だった。 「ヤス...ごめん、俺、稔を探さなきゃいけないんだ。」 大滝は、安井順平とダーリンハニーの死体に背を向け、また歩き始めた。 そうさ、こんな事、この先いくらでもある事なんだ。ここではこんな事、ありきたりの事なんだ。 そう自分に言い聞かせながら。 眠らされてからここに連れて来られる迄、どれ程の時間が経ったのか、わからない。 当てずっぽうと勘で今泉を探すしかないのだが、取り敢えず地図を見て、森の中を一周する事にした。 それにしても、と、大滝は武器の、金メッキの磁気ネックレスを見ながら思った。こんな物でどうやって身を守れっていうんだよ! 襲いかかってきた相手の首を絞めるにしても、短すぎる。 もう生き残っている芸人は少ない。少なければそれだけ、人に会う確立も少なくなる。 会う確立も少なくなるが...多分生き残っているのは余程の強者か逃げ回るのが上手い奴だと大滝は推測した。 そもそも今何人生き残っているのかも知らない。 会う確立が少なくなるだけで、0%になるわけじゃない。逃げ回るのが上手い奴ならともかく、強者に出会ってしまったら、これで身を守るには心もとなさ過ぎる。 それでも、俺が稔を探さなきゃいけないんだ。大滝は一旦立ち止まって空を見上げると、また歩き始めた。 「ヒュン」 一瞬、何があったのか、わからなかった。右腕を何か掠めた事しか。 自分の右腕を掠めた矢は目の前の木に突き刺さっていた。それから、痛みと傷から滴り落ちる血を感じた。 一瞬だけ振り返って、大滝は走った。逃げる為に。 さっそく、これか! キャン×キャンの長浜が手にしているボウガンの矢の矛先、それはさっき放った一発目同様二発目も明らかに、大滝に向かっていた。 ここで死ぬ事になるかもしれない。でも、今死ぬわけにはいかないんだ!俺が稔の手を離してしまったから。あの夜、気にかかったのに、一人にして帰ってしまったから。もう一度、稔の手をつかむ迄は... キャン×キャンの長浜も玉城も、ここに連れて来られる迄ボウガンなんて、手にした事さえない。一度で相手を仕留める事は多分無理だろうとわかっていた。だから玉城は予め先回りして木の傍で隠れていた。 そして玉城は走ってきた大滝の膝の裏をすくい上げる様に蹴り上げた。 膝カックンかよ! 仰向けに倒れた大滝の腕に、玉城はスタンガンを押し当てた。護身用の、通常販売されているスタンガンよりはやや電圧が高いらしく、その電気ショックで、大滝は意識を失った。 長浜はボウガンを下ろした。そして矢をじかに握り、大滝の胸に振り下ろした。 「痛で!」 大滝は右腕に焼け付く様な痛みを感じて、飛び起きた。 「あー、やっぱり痛かった?」 周囲は薄暗いが、視界が利かない程ではない。 強い酒の臭いが鼻をついた。それから、舌足らず気味の、間延びした、聞き覚えのある声。 「もう血は止まってるけど、念の為に酒で消毒しておいた。」 見覚えのあるその男は、そう言いながら大滝の腕にタオルを巻いた。 生きてるのか、俺。 大滝は、自分が洞窟の中にいる事に気が付いた。そして、多分目の前にいる男に助けられた事も。

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