――ゲーム開始直後。
「なー、これって一体なんなんだろうな」  ガリットチュウ熊谷は、前を歩く相方の福島に声を掛けた。 「俺、多分金庫の暗証番号とかだと思うんだけど」  福島は答えない。黙々と、行く当てもないまま前進し続けている。 「なぁー」 「うるさい」  それでもしつこく話し掛け続ける熊谷に、福島は一度だけ振り返り、童顔に似合わない険しい目付きで睨めつけた。これにはさすがに熊谷も口を噤まざるをえない。  福島の態度も無理はないか、と熊谷は思う。彼らに支給された武器は、決して当たりとは言えない――むしろ、明らかにハズレと言って良さそうな部類だった。  福島のナップザックには夏休みのおもちゃ売り場で見掛けるような、家庭用の打ち上げ花火セットが入っていた。  しかし、これは使い道がわかるだけまだいい。問題は、熊谷の方だった。  ナップザックの底からどうにか見つけ出した彼の武器は、ペンライトと、紙切れ一枚。メモ用紙サイズのそれには、4桁の数字が10個ほど羅列されていた。  暗号解読でもしろというのだろうか? しかしヒントも何もないただの数字の羅列から、答えが導き出せるはずもない。熊谷の主張通り金庫の暗証番号だったとしても、肝心の金庫の在り処がわからないのではどうしようもなかった。  使い道がわからなければ、ただの紙切れだ。紙切れで銃や刃物には勝てない。  自分たちの武器ではどうやっても勝ち目がないと知った途端、福島は黙り込み、そして熊谷を顧みもしないで歩き始めた。熊谷としては、そんな相方に居た堪れなさを感じながらも、後をついていくより外ない。  ふと横の繁みに視線を移した熊谷は、そこに微かな違和を感じた。暗いのでよくわからないが、木や草とは明らかに違う何かが落ちている。 「福島」  振り向いた相方に、繁みの向こうを指し示す。 「あそこ、何かある」  福島は目を細めるようにして熊谷の指の先を見たが、やはり夜の闇の中では判別がつかなかった。辺りに人気がないのを確認して、熊谷はペンライトを点灯する。小さな光の中に浮かび上がったものを見て、二人は息を呑んだ。  そこには、何者かの死体が倒れていた。  思わず後退りかけた熊谷だが、ある事に気付いて踏み止まった。銃器か何かで急襲されたのか、死体はナップザックを背負ったまま倒れている。  あの中には、まだ何か武器が残っているのではないか? 「俺、あのナップザック取って来る」  熊谷は静かな口調で、決意するように言った。 「あ、おい……」  福島が止める間もなく、熊谷は歩き出す。  もしもこの時、ライトの照らす位置がもう少しだけずれていたら――事態は全く別の方向へと進んでいただろうか。  熊谷の足首に激痛が走るのは、その一瞬後の事だった。

本編  進む

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