男は、このタバコとライターには何の細工もしてませんと言わんばかりに、タバコに火を点けて煙を吐くと、 「メンソールで良かったら、タキさんも吸う?」 「...ああ。」 普段吸っているタバコではないが、それでもタバコはタバコ。大滝にとってはありがたかった。胸いっぱいに煙を吸って吐き出した後、何かを言おうとした時、 「ところでタキさん何でこんなとこにいるの?ズミさんは?」 大滝に、ここに到る迄に何があったのか尋ねる隙も与えないかの様に、目の前の男...ライブ等で何度も会った事がある、インスタント・ジョンソンのジャイはそう言った。 「いや、それが...」 大滝はこの島に連れて来られる迄の経緯を話した。 「ヒュー、やるぅ。タキさんもズミさんも男気あるねっ。流石幼馴染み。俺ならそんな事しないし、スギやゆうぞうがそんな事しても見捨てるけどね。」 ジャイは無邪気とも馬鹿とも取れる様な、いつもの笑顔で茶化す様に言った。 「...そう言うジャイさんも、俺を助けてくれたじゃないか。」 「んー、何か、でかいフランケンシュタインの死骸が転がってるなーと思ったらタキさんで、何かまだ生きてるっぽかったらから、ここで一つ恩でも売っておこうかと思って。」 「でも、キャン×キャンが...」 「キャン×キャン?何かあったんだ。」 「俺、キャン×キャンに襲撃されて」 「ふうん、それは知らないけど。」 「そんな筈は」 「それよかさー、タキさんが手に持ってるの、磁気ネックレス?」 「あ、これ...多分。パチモンかもしれないけど。」 「じゃあさ、それ頂戴。」 「え?」 「俺でかくてかさばる物ここ迄担いで来たから、肩こっちゃってさ。タキさんあれがあるから、それいらないよね。だから頂戴。」 ジャイが指差した先には、大滝が最初に持たされたナップザックと、それからボウガンとスタンガンが、洞窟の壁にもたれかける様に、置いてあった。 「...あ、ああ。」 どう考えてもキャン×キャンが持っていた武器だ。 「やっぱり」 「タキさんの傍に転がっていたんだよ。だからその磁気ネックレス頂戴。」 ジャイはまるで、マルチ商法か何かの勧誘の様に、大滝が疑問を口にする隙を与えなかった。 「そんなに頂戴頂戴言うんなら、やるよ。」 ジャイは大滝から貰った磁気ネックレスを自分の目の前にかざした。 「うーん、シルバーだったらもっと良かったんだけど、どう見ても金メッキだね。18KINなんだから純金と迄はいかなくてもさあ。マイナスイオンも出そうにないし。」 「じゃあ頂戴ってしつこく言うなよ。」 「ま、いっか、これで貸し借り無しだね。」 ジャイはネックレスを首にかけた。 「こんなんで。そう言えばジャイさんも他の二人は?」 「ほら、コンビと違ってトリオってリーダーがいるじゃない?うちはさしずめスギが総長で、ゆうぞうが旗持ちで、俺がパシリだからさ、一人で周辺を偵察してたの。タキさん、その気無さそうだし、もう少し歩いた所に俺達がアジト代わりにしている家があるんだけど、来る?」 大滝は少し考えたが、 「否、やっぱり、俺稔を探すよ。俺でないと見付けられない気がして。」 「そっか。見つかるといいね。じゃ餞別にタバコと酒、やるよ。ライターは俺達もこれしかもってないからあげられないけど、自力でライターかマッチ、調達してくれ。」 「ああ。」 「じゃ、俺帰る。時間食ったから、あいつらも心配しているかもしれないし。」 ジャイを見送る為に、大滝も一旦洞窟から出た。 「稔見付けたら、お互い、生きて再会出来るといいな。」 と、大滝は言った。 「出来るよ、絶対。」 洞窟の中と違い明るい日差しの下、ジャイの、いつもの笑顔を見て、大滝はぞっとした。 裂けて血がこびり付いているジーンズ、左手に巻いているタオルからは血が滲んでいる。修羅場を潜って来たんだろうなという事はさっきから気が付いていたが...顔は笑顔だけど、眼は笑っていない。 ここも地獄だけど、もっと酷い地獄を抱え持ったような眼。薄暗い洞窟の中では気が付かなったが。 大滝は今泉の言葉を思い出した。 「皆、俺の知らない人になっていったよ。インジョンのジャイさんも。」 確かにあの時稔は、ジャイの名も言っていた。あれは、そう言う意味だったのか? 「どうしたの?化け物でも見る様な顔して。」 「...俺の事、フランケン呼ばわりするからだよ。」 大滝は、誤魔化しにもならないような言葉を言うのが精一杯だった。 「そうそうタキさん、狂気に飲み込まれたら駄目だよ。じゃ、また。」 「その言葉、稔に聞かせてやりたいよ。またな。」 小走りで帰るジャイが見えなくなると、大滝は又洞窟に戻った。 もう少ししたら放送で、詳細迄はわからなくても、大雑把な真相は何となくわかるのにな。 ジャイはそう思いながら、疲れない程度に小走りで緑の家に向かった。 言わなかったのはタキさんの為じゃない、俺が言いたくなかったんだ。 この偽善者め! ジャイは帰る途中、なるべくそれを見ない様にして走った。 狂気に飲み込まれたら駄目、か。そういう俺自身が正気かどうか、わかったもんじゃないけど。 正気と狂気のボーダーラインって、どこにあるんだろ。 もう長い事、自分の顔を見ていないな。あの家にかつて住んでいたのは、やっぱり男だったんだ。だって、鏡が無いもの。今俺は、どんな顔してる? そう思いながら。

本編  進む

蛙 ◆GdURz0pujY
SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO