悲鳴が聞こえてきたのは、相方が繁みに分け入ってすぐの事だった。光の点が動いて手前の地面を指す。トラバサミに挟まれた相方の足が映し出された。 「熊谷!」  ガリットチュウ福島は相方に駆け寄りながら、内心で舌打ちする。  不用意に動くからこんな事になるんだ……。  金属製の罠に手をかけるが、外し方がわからない。熊谷の呻き声が、手間取る福島を更に焦らせる。トラバサミの牙は骨に達するほど食い込んでおり、相当な重傷であるのは明らかだった。  力に任せてどうにか罠をこじ開け――たところで、後頭部に硬く、角張ったものが押し付けられた。福島の背後を見た熊谷が息を呑む。何が起こっているのか直感した福島は、自分の背後にいるであろう人物に話し掛けた。 「何の用、ですか?」 「大した事ではありません……ちょっと僕らに協力して欲しいだけですよ」  拳銃を押し付ける手に力を込めながら、ななめ45°岡安は、余裕を見せ付けるようなゆったりとした口調で言う。協力ではなく脅迫だろう、という言葉を福島は飲み込んだ。冷たい汗が福島の背中を伝っていく。 「怪我人は邪魔になりますから、僕の相方が安全な場所に連れて行きます」  熊谷の背後から現れた土屋が熊谷の腕を掴み、強引に立ち上がらせた。 「あ、放せよ! 放せって……」  熊谷は身体を捩って逃れようとしたが、相方の命を握られていては迂闊に抵抗出来ない。一歩踏み出すたび走る激痛に悲鳴を上げながら、そのまま引き摺られるように、福島の視界から消えた。
「さて、ここからが本題です」  トリオの残るメンバー、下池が福島の眼前に現れ、金属製の箱のようなものをナップザックから取り出した。下池と同様、福島もそれが何であるのかを一瞬にして見抜いた。 「その時限爆弾をプレゼントします。好きなように使ってください」  思わず訝しむ表情を浮べた福島を見て、下池は唇の端を歪めた。 「ただし、こっちには拳銃がありますし、あなたの相方の居場所も僕らしか知りません。……意味はわかりますね?」 「他の芸人がいる場所に仕掛けろと、そう言いたいんですね?」  福島の言葉に、下池は満足そうに頷いた。  要するに、彼らは時限爆弾を使う上で最も危険な仕事を、福島にやらせようというのだ。福島自身と、相方の命を人質にして。 「あなたたちの思い通りにしたら、僕らは解放してもらえるんですか?」  福島は疑惑の眼差しを向けながら問う。  下池は意味ありげな笑みを浮べた。 「ま、こっちとしても、出来るだけ自分の手は汚したくないんですよ」  福島は今度こそ本当に舌打ちした。

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