小さな灯かりを頼りに部屋の中を探る。住民も長い間入っていなかったのだろう、埃ばかりが目に付いて、扉を破る道具や武器になりそうな物は見付からない。  部屋中を隈なく捜索して、ようやく見付けたのは机と椅子のセット一式と、そして―― 「なんだこれ?」  それは黒塗りのレトロな形をした有線電話だった。 「使えるのかな?」  どうやら線は繋がっているらしい。受話器を取って適当にダイヤルを回すと、受話器の奥でガスコンロの着火前のような音がした。  熊谷は知っている限りの電話番号を回した。しかし、呼び出し音ともつかない奇妙な音が鳴るだけで、一向に繋がる気配がない。  これもハズレなのだろうか、熊谷は落胆しかけた。  ――いや、ちゃんと動いているし、電話線も繋がっている。撤去する事も出来たのに、スタッフはそうしなかったんだ。  熊谷の試した番号には繋がらないようだった。恐らく、外部には繋がらないようになっているのだろう。しかし――ならば、内部には繋がるのではないか?  内部――内線?  熊谷の脳裏に閃きが走った。それは奇跡とすら言えるくらいの偶然だっただろう。罠にかかった事の不運ですら、覆せるほどの。  熊谷の武器は、ハズレではなかったのだ。  ペンライトを口にくわえ、ナップザックの中を探る。引っ張り出したのは、4桁の数字が並んだメモ用紙。  熊谷は受話器を外し、祈るような気持ちでメモ用紙の番号をダイヤルした。

「え? 今のがぐ…………ごめん」 「あー、また噛んだ!」  ドランクドラゴン塚地は、相方の失敗に呆れたような声を出した。 「もう、これで何度目や。いい加減普通に言えるようになれ」 「ごめんって。そんなに怒んなくてもいいだろー」 「怒りたくもなるわ。俺らこのコントに命懸けるんやで? お前が噛んだせいでアウトとか、洒落にならんわ」  ドランクドラゴンとアンタッチャブルは、民家で休憩しつつ、塚地の計画実行に向けてネタ合わせをしていた。しかし、ドランクドラゴンのネタ合わせは、鈴木の失敗のため一向に先に進まない。  塚地は溜息をつきながらアンタッチャブルの方を見る。二人は窓際で外を監視しつつも、二人で協力してネタを作っているようだった。後輩である自分の頼みを二人が真剣に聞いてくれた事が、塚地には嬉しかった。  だが一方、肝心の相方・鈴木は普段と同様、やる気があるのかないのかいまいちわからない様子である。一応ネタ合わせには文句を言わず付き合ってくれるものの、こんなに噛んでばかりでは、苛立ちを覚えるなというのが無理な話だ。  ――あの女芸人と戦った時は、あんだけ上手く喋ってたのになぁ……。  椿鬼奴に捕まった塚地を助けるため、鈴木は普段からは想像も出来ないような演技を見せた。相方の代わりに自分を殺して欲しい、なんて真剣に言える柄ではないのは、相方である塚地が一番よく知っていた。 「まさか、あん時に全ての運を使い果たしたんちゃうやろな……」 「え? なんか言った?」  鈴木が怪訝そうな表情を浮べた時だった。  突如、けたたましいベルの音が鳴った。一瞬にしてその場に緊張感が走り、塚地と鈴木、そして山崎と柴田も、音の発生源に目を向ける。  鳴っていたのは黒塗りの電話だった。何かの仕掛けが作動したのかと警戒したがそうではなく、本物の呼び出しのようだった。  視線を交わした後、一番近くにいた塚地が受話器を取り、恐る恐る耳を近づける。受話器の向こうからは、焦りと安堵の気持ちが入り混じった声が聞こえてきた。 「――し、もしもし! 僕、熊谷です……ガリットチュウの熊谷です!!」

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