今野は苛立っていた。 「部屋が汚すぎる!」 ただでさえそう広くない部屋に野郎五人と、むさ苦しい。何か合った時、裸足で逃げるのは危険だからと靴は履きっぱなしで、床は土埃まみれ。壁には銃弾が食込んでいる。その上部屋全体がヤニ臭い(主な原因はジャイ)。 きれい好きの今野には、耐え難かった。 「どこが?」 と高橋が言った。 「確かに床は泥だらけだしヤニ臭いけど...それ以外は俺の部屋よかきれいだけど。」 「パーケンの基準で言うなよ!いい、掃除する。」 「ずっとここにいるって、決めたわけじゃないんだし。」 「こんなとこ、一秒でもいたくない。」 「俺、手伝うよ。」 インスタント・ジョンソンの中で一番几帳面なゆうぞうが言った。 「何もしないでいるよりは、気も紛れるしね。」 「そうしてくれる?」 「...じゃあ俺もやるよ。」 ゆうぞうが手伝うといった手前、自分もやらなきゃいけないかなと思い、高橋は渋々そう言った。 今野はきっとした表情で、 「パーケンがやると、もっと汚くなるから、座って息だけしてて。」 「むかつくなあ。」 「俺もやるよ。」 と、スギが言った。 「スギさんは...」 今野は一寸考えた。この五人の中で一番体格がいいのはスギだ。だったら、 「何か合った時の為に、待機してて。」 「じゃあ俺はこの周辺、見回りに行って来る。何か合ったら銃声で知らせるから。そっちも銃声で知らせて。」 ジャイの口からは手伝うの一言も無かった。尤もその手では雑巾代わりのタオルを絞る等、無理なのだが。 「その手で?」 と、高橋が言ったが、 「利き手じゃないから、大丈夫だよ。じゃ。」 そう言うとジャイは、出て行った。 スギはタバコを吸おうとしたが、ライターが無い。 「ジャイ、ライター持ってっちゃった。」

何故タキさんがここに! 森の中、ジャイは自分の眼を疑った。ゲーム開始当初、あの教室の中に18KINはいなかった筈だ。 だけど、大滝はここにいる。今泉の姿は見えないが。 大滝の手元が一瞬光った。細く短い、ネックレスの様な金色の鎖。あれが武器なら、随分と心もとなさ過ぎる。その上無防備で、警戒心が全くといって言い程感じられなかった。それより何より... キャン×キャンに後をつけられている事に気付いていない。 あいつらタキさんをどうするつもりだ! ジャイは気付かれない様に後をつけた。

後をつける内に、アジトが遠のいていく。もう、ここ迄離れたら、何か合った時に知らせるといった銃声も、互いに聞こえない。 やばいな、俺何やってるんだ?タキさんを助ける為?俺はそんなにお人好しじゃないぞ。 それでもジャイは引き返す事が出来なかった。

キャン×キャンの二人も、レギュラーの放送を聞かなかったわけじゃない。むしろ、光を見た様な思いをした。 でも、その光は一瞬で消えた。 殺らなきゃ、殺られる。その思いを、更に強固にしただけだった。 どーよを襲撃した時も、そして今も、全く躊躇が無かったと言えば嘘になる。だけど...

玉城が大滝の行く手を先回りしたのを見た時、ジャイは二人が殺す気になっている事を確信した。 ジャイは躊躇した。ここで大滝を助けても、その大滝がその気になっているかもしれない。 大滝を助けて、その後、ふっとした隙を付かれて拳銃を奪われたら?奪われずとも、拳銃を跳ね飛ばされて、素手で戦う事になったら? ジャイだって小柄な方ではないが、大柄な大滝相手に素手で戦うのは明らかに不利だ。 「危ない!」 ジャイは高橋の言葉を思い出した。ヅラットピットに襲撃された時だ。あの時、高橋さんはこんな思いで俺達に声をかけたのかな。 長浜は大滝に矢を放った。長浜から逃げようと走り出した大滝の膝の裏を玉城は蹴り上げ、仰向けに転倒したところへスタンガンを当てた。 ジャイに突き付けられた現実。今、大滝を救えるのは自分以外誰もいないという事。 そうだ、と、思った。ここからアジト迄、近くも無いけど、遠くも無い。キャン×キャンはその気になっている。もし見つかったら俺達を襲撃してくるだろう。だったら今の内に手を打っておかないと。 そして、もしその気になっていたらその時はタキさんも... 自分に対してそう言い訳しながら、玉城の心臓を撃った。 銃声と仰向けに倒れた血塗れの玉城。突然の出来事に、倒れている大滝に突き刺そうとした矢は、唖然としている長浜の手から滑り落ち、地面に突き刺さった。 長浜の首輪のセンサーはもう反応している。 ジャイは駆け寄り、大滝が返り血を浴びない様に、前屈みになっている長浜の脇腹を無慈悲に蹴り上げた。 長浜の首輪が炸裂した。

ジャイは用心深く大滝の傍にしゃがみ、こめかみに銃口を当てた。 「タキさん、起きないと撃つよ。」 反応は無い。本当に大滝が気絶している事と、傍に今泉が潜んでいない事を確認した。 呼吸はあるから、生きているんだろう。矢が掠めた右腕の傷も、たいした事無さそうだ。 こっそりナップザックの中を確認してみた。武器はやっぱり手に持った、ネックレスだけだ。 念の為に傷の手当てをしようかと思ったが、バーボンがどれ程傷口に沁みるか、よくわかっている。ここで眼を覚まされるのは嫌だ。こんな、死体の傍で。 でも自分達のアジトに連れて行くのも、大滝がゲームに乗ったか否か、わからない今、危険だ。 ジャイは大滝を担ぎ、ボーガンとスタンガンを持つと、茂みの中に入った。 そしてすぐに、洞窟を見付けた。用心深く見てみると、中には誰もいない。 ここなら、まあいいだろう。 ジャイはそっと大滝を降ろし、ナップザックとスタンガンとボーガンを置くと、自分のナップザックからバーボンを出し、大滝の傷口にかけた。 「痛で!」 大滝は焼け付く様な痛みを感じて、飛び起きた。


キャン×キャン死亡

【残り33組】

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