「ダメや…アカンて、平井さっ…」 何が起こったのか分からなかった。ただ目の前に広がる惨劇を呆然と見つめる事しか出来なかった。

柳原と平井は街のはずるの住居に隠れていた。 2人とも、この理不尽なゲームにのる気は無かった。 「仲間を殺すなんて…常人のすることやない」 狂人になってまで生き残りたいとは思わない。 それなら皆で生き残る道を選ぶ、と柳原は考えていた。 文字通り“死ぬ気”で。 その為には仲間を集めなければ。ナップザックに入っていた名簿を見ながら二人は信用できそうな人間を慎重に選び出した。 「スピワの二人は…信用できる気ぃするんやけど…」 柳原は名簿の『スピードワゴン』のところに丸をつけた。 井戸田は正義感のある男だ。目の前で仲間を殺された以上このゲームを見て見ぬ振りをするとは思えなかった。 小沢は小沢で異常な程の平和主義者、 この二人は信用できると柳原は言った。 その意見を黙って聞いていた平井だったが、少しだけ眉を顰めて柳原を見つめた。 「その意見は一応“保留”やな。」 「!?」 柳原は思わず立ち上がった。 ここからでは平井の表情は見えない。 「この二人やったら絶対信用できるで!?」 声を荒げて訴える柳原だが、平井の表情は変わらなかった。 「ヤナ。よく見といてや」 平井は立上がり、柳原の肩を掴んだ。 「目を、背けたらアカンねや。」 「は…?」 柳原は平井の言ってる意味が理解できなかった。 しかし次の瞬間、ドアが勢いよく開け放たれ一人の男が飛び込んで来た。 「うぁぁぁぁぁ!!」 「!?危なっ、平井さん!!」 その男は恐らく支給されたのであろう釘を手に持ち、平井目掛け手振り下ろした。 しかし柳原の心配をよそに、平井はスッと男を躱し後ろに回り込んだ。 そして 「…平井、さっ…」 平井はその男の喉を、支給されたナイフで切り裂いていた。 「かっ…、かはっ!!」 首から夥しい程の血を吹き出しながらその男は倒れた。 もう絶命は時間の問題だった。 だが、まだピクピクと動く身体を平井は何度となく切り付けた。 飛び散る鮮血に、引き裂かれる肉。 「ダメや…アカンて、平井さっ…」 柳原は状況を理解できていなかった。 だがあまりにも悲惨な光景に無我夢中で平井を止めた。 ポタ、ポタと血がしたたるナイフを持った平井は柳原に向き直った。 「お前がもっているのは正義感やない。ただのエゴや。」 柳原は平井の言葉を耳の中で繰り返した。 エゴ…? 「お前がしようとしてることは「皆で助かりたい」というエゴの押しつけや」 数秒前まで人間だったモノを一瞥し、平井は続けた。 「お前は、たとえ絶望して自殺をはかろうとしてる奴が居てもとめるんねやろ?」 「当たり前やんけ、だって…」 「生きる道があるんやから、か?アホか。生きる為に人を殺すのが嫌な人間に人を殺すのを手伝わせるんか?」 柳原は怒鳴った。 「人を、仲間を殺さんでも生きる道はある!!それを今から探すんねやろ!!」 「じゃあもし、殺る気になっている奴と出会ったらどうする?」 平井はナイフを柳原に向けた。 「こうやってナイフを押しつけられて、死ぬか生きるかの瀬戸際に、殺さないなんてゆうちょな事言ってられんのか?」 平井はナイフを持つ手を下ろし、言った。 「ええか。殺る気になっている奴は容赦なく殺す。それができへんのなら…」 柳原は平井の目から悲壮に満ちた殺意を感じた。 少しの沈黙、破ったのは柳原だった。 「わかった。平井さんの言うとおりや。せやけど、もし仲間になった奴を殺したりしたら…俺──…」 「わーってる。」 二人はお互いを再認識するように見つめた。 「ほな、作戦考えなおそか。」 「その前に、ナイフ、洗ってこいや。」 「その前に、パンツ、買うてこいや。」 「ビビってるやんけ!!」
“俺がお前を殺す” 言えんかった、言うべきやなかった。でも、言わんでもわかっていた。 たとえ意見や方法が違っても目標は同じ、 『生きてこのゲームを終わらせる』 二人は血の臭いが充満する部屋を後にした。

――あれきさんだーおりょう死亡

【残り63組】

本編  進む

霧 ◆ulAwgplWcU
SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO