「ひとまず、作戦を立てよう。」
そう言う小沢の目は、真っ直ぐと井戸田を見つめている。 これが先程まで情けなく愚図っていた男なのか、と井戸田は目を瞬かせた。 歩き疲れた重い足を引きずり、スピードワゴンの二人が辿り着いたのは古い診療所だった。 中は荒れ果てていたが、いくつかの薬と包帯を見つけることが出来た。 スタートからだいぶ時間が経過している。それでようやく小沢も落ち着いてきたのだろう。
「俺達の他にも戦いを望んでないコンビもいるはずだ。そいつらにまずは接触しよう。」 「他に誰が出てたっけ?」
アンジャッシュ、エレキコミック、長井さん、いつここ… 小沢が指折り数えている所に、その場に不釣合いな明るいチャイムの音が流れた。
『おーっす、殺しあってるかー?視聴率も上がってきてるからなー、この調子で殺しあってくれー。』
響き渡るプロデューサーの声に井戸田は眉を顰める。 小沢は無言で放送に聞き入っていた。
『ここで新しい死亡者の名前を読み上げるぞー。』
小沢の体が硬直した。 ―新しい死亡者?…新しい?
『えー、「だるま食堂」「スパークスタート」「井上マー」「ガッポリ建設」「あれきさんだー おりょう」…以上だ。』 『残り63組になったな。んじゃ、頑張ってくれ。』
ブツ、と放送が切れた。途端に重苦しい沈黙が流れる。
「クソッ!!」 井戸田は側にあったテーブルに拳を叩きつけた。 何故彼らが死ななければならなかった? …誰が、誰が彼らを? 死んだ者がいるということは、殺した者もいるかもしれないということだ。 さっと血の気が引く。
「今俺、すげぇ死にたいかも。」 唐突な小沢の呟きに、井戸田は顔を上げた。
「小沢さん…」 「俺って前々からさ、浮き沈み激しいとこあったじゃん。…今、すげぇ沈んでる。」 硬く握り締められた小沢の手は震えていた。
「今死ぬのは簡単だけどさ…でも俺死んだら潤も死ぬんだよね。」 「だな。」
自分の命の事だというのに酷く冷静だな、と井戸田は苦笑いした。 「どうする?」
先ほどの教室でも言った質問を、再び投げかける。 死ぬか生きるか。首を吹っ飛ばされるか殺人ゲームに舞い戻るか。 井戸田が大事な事を小沢に預けてしまったということに気付いたのは、「る」の字を言った時だった。 「俺は生き残る。…潤には生きてて欲しい。」 「…わかった。」
小沢の頭をくしゃくしゃと撫で、井戸田は大きく頷いた。

【残り63組】

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