この戦いがグループ戦で本当に良かったと思う。 “良かった”なんていうのも不謹慎だから“不幸中の幸い”とでも言うべきか。 例えば今。夜交代で見張りを立て休息をとることが出来る。 そしてなによりも――最も戦いたくない相手と戦わずにすむことだ。 大木にもたれかかり静かに寝息を立てている弟を見て、たくや(ザ・たっち)は安堵の息をついた。 最初は殺し合いなどという非現実的な状況に二人で悲観するしかなかった。 けれどそんな状況の中でこそ、二人で一緒に協力しあうことができる。 生き残るために他者を殺すなどという選択はできないが、 “双子”という絆で結ばれた二人はきっと他のコンビよりはるかにチームワークはいい。 上手くすれば死なずにすむかもしれない。 そう考え、前向きにこの状況と向き合うことにした二人は交代で休みをとることにした。 いつ眠れるかわからないこのゲームでは、僅かな時間でも有効に利用しなければならない。 森の中、静かな風が木々を揺らす。二人が寄りかかる大木の空に大きく広げられた枝からは 時折緑の葉がひらひらと舞い落ちてくる。こうして静かに森中の自然が囁きあい――。  「!?」 違う。この音は自然の音じゃない。 眠気と戦いつつ周囲に注意を巡らせていたたくやの耳に飛び込んできたのは、紛れも無く誰かの足音だった。  「かずや――」 声をかけ起こす間も無く、思った以上にそれは早く現れた。 木々の間、闇を纏った何者かの姿がたくやの瞳に映る。  「だ、だれだ?!」 支給武器の金属バットを持ち、たくやは立ち上がった。 声が震えているのが自分でもわかる。誰かと遭遇するのは初めてだった。  「その声は――ザ・たっち?」 こちらの質問に答えることなく逆に聞き返してくる。 声からすると男のようだ。 コイツは一体――。  「なぁんだ。大物かと期待してたら。拍子抜けだな」 ――な、なんだこいつ。 恐怖は消え、逆にたくやは相手の言葉に怒りを覚えた。  「そんなこといって、君は誰なんだ?」 自然と激しい口調になる。それに反応するかのように、相手は動いた。 たくやの、金属バットを握る手に力が入る。 足音が近づき、その男の纏う闇は少しずつ薄くなり彼自身の姿を鮮明にする。 月の光に照らされにやりと笑う男の服にはまるで模様かなにかのように血痕がついていた。  「おまえは…!」  「ハハッ。驚くのも無理ないか。さっき放送があっただろう?スパークスタートは、俺が殺したんだよ」 ――な、なんだって?! たくやは唖然とした。放送を聞いた時、ゲームは始まっているんだと絶望にくれたのは事実。 しかし本当に殺しを行ったものがいるなんて…。 矛盾しているのはわかっていた。けれど心のどこかで否定していた。殺し合いが行われていることを。  「二組目はおまえらか。まぁいい、段々と敵のレベルを上げていけば。どうせ皆殺しにするんだ」  「そんなこと言われる筋合いは無いよ。CMやドラマに出た僕らのが君より売れてると思うけどね。Diceさん?」 目の前の男――“Dice”にたくやは無駄に腹がたった。 殺しをしたことをまるで自慢話のようにしたこと。そして自分たちを馬鹿にしたような言い草。 珍しくたくやは強気な反論をした。  「なんとでも言うがいいさ。おまえらなんて今すぐにでも片付けてやるよ」 そういうとDiceは背負ったナップザックの中から何かを取り出した。 ――刀。  ナップザックに入る程度の大きさだ。そこまで大きくはない。 しかし艶やかに光るそれの切れ味は一目瞭然。決して油断ならないものだ。 たくやの頬に一筋の汗が流れる。 ――今自分は、死ぬか生きるかの境目に立っている。 たくやは金属バットを構えた。 言葉は無い。 Diceは地面を蹴り前へ出て大きく刀を振りかぶってきた。  「うわっ」 よく動きを見ていたため、素早く後ろへよけることが出来た。 ――さすが“タッチ”だな。と、心の中で自分を褒めた。 Diceの刀は標的を失い、大きく宙を切る。 ――今だ! 刀と一緒に前かがみになり隙だらけのDiceの首元を目掛け、たくやはバットを振り下ろした。 カキン。 金属音。たくやのバットは刀の嶺を叩いていた。 さっ、二人同時に一歩後ろにとぶ。 二度目は両者とも同時。振り上げた刀とバットが交差する。  「たぁあっ」 渾身の力をたくやはバットに込めた。 宙を舞う刀。Diceが驚愕の表情を見せた時にはもう刀は地に刺さっていた。  「もらったぁあ!」 背後に落ちた刀を拾うべく後ろを向いたDiceの背中に、たくやはバットを振り上げる。 ――勝った。 勝利を確信したたくやの手はDiceの背まであとわずか20センチのところで止まる。 首だけこちらに向けたDiceの手にマシンガンが握られていた。 その黒い銃口は、たくやの額に向けられている。  「ハッ、まさかお前なんかにこれを使うとは思って無かったよ」 その言葉を聞く前に、たくやはDiceに背を向けていた。  「かずやああああああああっ!」 バットを放り出しDiceに背を向けたたくやの叫び声は、 直後タイプライターのような銃声により掻き消された。  「うわっ」 前のめりになって転んだたくやの背には複数の穴が空き そこからとめどなく血があふれ出していた。  「くそぅ…かずやぁ…逃げろ――」 それがたくやの最後の声となった。 倒れたたくやの頭に向けられたマシンガンの銃口からは煙が立ち昇っている。 それを持つDiceは満足そうな笑みを浮かべる。  「馬鹿か。確かに俺はおまえらより売れてない、だから俺以外のやつ皆殺しにして俺が一番になるんだろ?」 たくやと連動しているかずやの首輪が点滅し、ピッピッと機会音を鳴らし始めた。 かずやは未だに眼を覚まさない。 Diceはたくやとかずや、二人分のナップザックを持つと素早くその場を離れ、闇の中へ消えていった。

――ザ・たっち死亡。

【残り62組】

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