暗闇の中で煙草の先の小さな光とそこから細く細く立ち上る煙。 ゲーム中の喫煙は煙や匂いが誰かに気づかれる危険がある。 しかしここ、商店街の一角にある八百屋の二階。 店の者が暮らしていたであろうここの台所は外からは死角になっていて、 ここなら誰かに発見される心配も無い。  「なぁ、堤下ー」 相方の声にインパルス堤下敦は首を横に向ける。 先程から流しの下の収納庫を漁っていた板倉だったがその両手には包丁が握られていた。  「この包丁と俺のメスで“鬼切り”が出来る!」  「いや板倉さん、今物ボケやんなくていいから!」 こんな状況でもボケとツッコミが出来るなんて、インパルスもまだまだ健在だな――、 と堤下は思った。板倉もきっと癖でボケたんだろう。映画出演の時も葬式シーンでボケたくなったって言ってたし。  「あ、おまえ煙草吸ってるじゃん」 堤下が煙草を吸っていることに今気がついたのだろう。 板倉は包丁を片付け立ち上がるとダイニングテーブルを挟んで堤下の正面に位置する椅子に腰をかけた。 そして煙草を取り出しライターで火をつける。 二人の煙草から出る煙が交差し、闇に解けていった。  「そういえばさぁ、おまえ武器なんだったの?」 ふいに板倉が尋ねる。 そういえばそうだ、さっき確認してみたけどまだ見せてなかった。 堤下は自分のナップザックの中からそれを取り出した。  「なにこれ?」  「煙幕、みたいだね。黒い煙が出るやつ」  「へーえ、俺のメスよりは使えそうだね」 果たしてこれが役に立つのかはわからない。 けれど誰かと遭遇しても相手を傷つけることなく上手く逃げられる。 板倉の言う通り、そう考えるとメスよりははるかに使えそうだ。 椅子の下に置いたナップザックに煙幕を戻そうと堤下が手を伸ばした時―― 夜空に響くような銃声が聞えた。

その銃声からすぐに二度目の銃声。 今度は肩を竦める暇もなかった。板倉の手からは煙草が落ちて テーブルの上で静かに煙を上げている。 堤下はその落ちた煙草と自分のをテーブルの上にあった陶器の灰皿に投げ入れ、 ナップザックを持って立ち上がった。  「俺、止めてくる。板倉さん、ここでまってて」 すでに玄関へと体を向けている堤下の背に板倉がいつもより甲高い声を発する。  「え、ちょっと待てよ。なになに、なんでおまえ一人でいくの?」  「だって危険だし――」 ごく近くで殺し合いが行われている以上、様子を見に行く必要がある。 無駄な争いなんて止めるべきだし、 何より殺人鬼が近くにいるとしたら自分たちの身にも危険が及ぶからだ。 板倉を同伴させまいと思ったのは先程の怯えようから。 ゲームへの参加が告げられあれほど取り乱していた板倉を 殺し合いが行われている現場に連れて行くのはあまりにも酷だと思えた。  「な、だっておまえが死んだら俺も死ぬじゃん。一緒だし」  「けど、板倉さん怖くないの?」 こう会話している間にも銃声は続く。 二人の間を流れる空気もなんだか速くなっているようだ。 速くしないと、誰かが殺されるかもしれない――。もしそれが、仲の良い芸人だったら? その思いが堤下を焦らせた。  「怖くないわけねぇだろ。けどやっぱここは行かなきゃ」 いつもの静かな板倉とは違う。恐怖を抑え、行くと言った板倉の目には強い意志があった。  「わかった、いこう」 二人は争いを止めるため走り出した。

八百屋を出てすぐの道。 この先にある民家のほうから銃声が聞えてくる。 二人は銃声の呼ぶほうへと走り出した。  「堤下、これはなに、戦いを止めることを前提?」  「うん」 真っ直ぐと走ってゆくと坂道になっており、その坂の下にある二つの民家に人影がうかがえた。 片方は時折ブロック塀から顔を出し銃を撃つ二人組み。ここからだと木が死角になっていて顔が見えない。 そのうち一人だけが銃を持っているようだ。 そしてもう片方は、一瞬顔を出してはすぐに引っ込める。銃がないのだろう。  「あ!」 思わず堤下は声を上げた。何故ならその銃がないほうの二人組みのうちの一人が 塀から体を出したのと同時に銃声が響き、その人物が後ろに吹っ飛んだのだ。  「ねぇ、板倉さん!撃たれた!!」  「誰が?!」 板倉は視力が悪いらしいが、自分は良い。 その倒れた人物と、それにかけよる相方が堤下にははっきりと見えた。  「竹山さんたちだ…」  「えっ?!」 倒れたのは中島。竹山はその中島に寄り添っている。 中島がボーガンをもっているところ、それで対抗しようとしたのだろう。 マズイ――このままじゃあ、間合いを詰められて終わりだ。  「どうしよう。竹山さんたち、やばいよ――」  「堤下、俺考えあるんだけど」 板倉はポケットからメスを取り出し自信ありげな笑みを浮かべた。

「おまえの煙幕あるだろ?あれを使うんだよ」 次々と、『カンニング救出作戦』が板倉の口から語られていく。 堤下は黙って耳を傾けた。  「あれを使うだろ。で、おまえが行って、中島さんを背負って三人でその場を離れる」 闇夜の中さらに煙幕を使ったら視界はゼロに等しい。 まぁ、確かに煙幕を使った作戦ともいえないくらい単純な作戦だ。 けど――  「板倉さんは?」 それが気になったのだ。自分がカンニングの二人を安全な場所に誘導するとして、 その間板倉はなにをしているのか――。  「俺は、あいつらの足止めをする」  「えぇ?!」 思わず大きい声がでて、堤下は慌てて手で口を塞いだ。  「なに言ってんだ。危ないよ!」  「だって必要じゃん。足止め係り」  「だったら俺が――」  「いや、俺のが身軽に動けると思うし。おまえは中島さんを運ぶ役があるだろ?」 驚いた。あんなに怖がっていたのに、自ら危険な役を買って出るなんて――。 けれど堤下は首を縦には振れなかった。だって、板倉さんを危険なめにあわせるなんて、もし怪我でもしたら――。  「板倉さん、でも――」  「だーいじょうぶ!っていうか俺がやりたいんだもん」 そういうや否や、板倉は民家に向かって駆け出した。  「堤下!煙幕!」 仕方ない。もう板倉の無事を祈るしかない。  「板倉さん!絶対死ぬなよ!」 そう叫んだ瞬間、辺りは暗黒に包まれた。

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