「あぁもう、なんなんだよこれー。意味わかんねぇよー」  ドランクドラゴン鈴木はそう喚くと、頭をグシャグシャと掻き毟った。 いつもと同じ情けない姿――唯一違うのは、ここがコントの収録現場ではなく、バトルロワイヤルの会場であるという事である。  ビッキーズの死を目の当たりにして茫然自失状態の鈴木を、相方塚地がどうにかスタート地点から引っ張りだしたのが数分前。 人気のない林の中央部で、とりあえず腰を落ち着けようとした矢先、どこからか断末魔の悲鳴が聞こえてきた。 現場はどうやら近くではないようだったが、鈴木はそれをきっかけに、完全なパニックに陥ってしまったのだった。 「落ち着けや、鈴木――」 「塚っちゃんが落ち着きすぎなんだよ!!」  なだめるように伸ばされた塚地の手を、鈴木は乱暴に振り払う。 「塚っちゃんだって見ただろ、いきなり二人が殺されたところ!  さっきの悲鳴だって、どっかで誰かが襲われたって事だろ!? 本当に、人が死んだり、殺されたりしてるって事だろ!?」  眼鏡の奥の目を見開いてそう叫ぶと、再び先程と同じ状態に戻り、髪を掻き毟る鈴木。このままでは作戦を立てるどころか、即誰かに見付かってゲームオーバーである。 「そりゃ確かにおかしな事になってるけども……しゃあないやん、落ち着かな」 「落ち着いたってしょうがないだろ。じゃあなんだよ、落ち着いたら『今までのは全部嘘でしたー』ってなんのかよ」 「それは――」 それは、ない。先程の悲鳴はともかく、ビッキーズはあの時、確実に死んでいる。 「あぁー、もう」  鈴木はまたグダグダ言い始めた。塚地はさすがに苛立ち始める。無意識にポケットを探るが、煙草は抜き取られている――それを確認した瞬間、苛立ちが堰を切って溢れ出した。 「いい加減にしろや鈴木!! いつまでグズグズ言ってるつもりや!!」  突然の怒号に思わず口を噤む鈴木。塚地は顔を真っ赤にして更に怒鳴る。 「こんな所でぐずってたってどうしようもない、そんくらいわかるやろ!?」  本当は、自分だって怖い。バトルロワイヤルの開始が告げられ、ビッキーズが殺された瞬間は、恐怖に精神を支配されそうになった。  しかし――隣に座っている相方を見た途端、塚地の思考回路はどうにか繋がった。  いつものように、間抜けな顔で硬直している鈴木。やっぱりこいつは、俺がいないとなんにも出来ん――お笑いではまったくの役立たず、実生活でも抜けた所ばかりの鈴木のお蔭で、自分は壊れずに済んだ。  そう――鈴木には、ほんの少し……本当にほんの少しだけだが、感謝している。  だからこそ。 「お前、一児のやないか。父親がそんなんでどうするんや」  塚地の言葉に、鈴木は最愛の妻と息子の顔を思い出したのだろう。だらしなかった顔が、僅かに引き締まる。 「奥さんや子供、悲しませたくないやろ」 「うん」 「だったら、生き延びな」 「……うん」  鈴木はしっかりと頷いた。落ち着いた、とまではいかないだろうが、今、この場でどうするべきかは飲み込めたようである。 「なら、まずは武器の確認や」  使う使わないは別として、状況の確認は必要である。人の気配がないのを確認して、二人はナップザックを開けた。

本編  進む

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