だいだひかるは歩いていた。 ただひたらすら歩いていた。 どれくらい歩いたのか、もう気にならない程歩いた。 鬱蒼と生い茂る雑草も背の高い木も視界には入らない。 そういえばさっき遠くから何か音がしたような気がした。 「………あれは何の音だったんだろう」 そう思った時、だいだひかるの足は止まった。 ふと、気がつくと片手にリュック。 「これは何だっけ?」 思考回路が、ほんの少し動き出した途端、ダムが決壊したように汗が吹き出し、全身が音をたてて震え出した。 そうだ。私は何をしているんだろう。 頭の整理がつかず、何か強い力で脳が考える事を拒否しているようだ。 数時間前、とても大切な事を言われた気がする。 何か大事な物を見た気がする。 『ガシャン』 ふいに片手から滑るようにリュックが落ちた。 「落とした…」 手をひっぱられるように頭の中から現実の世界に引き戻された気がして、一つ一つを言葉にして確かめなければ、今にも精神がどこかへ飛んで行きそうだった。 リュックをかがんで取ろうとすが、膝ががくがくと震えひざまづくのにとても時間がかかった。 そして、ゆっくりと震えの止まらない手でリュックを開けてみる。 そこには見た事もない鉄の塊。 40センチ程度の大きさの黒い塊の ――――――銃だ。 とっさにだいだひかるはそれをリュックに直した。 「そうだ。」 小さい声で、しかし、しっかりと意志のある声でだいだひかるは言った。 思い出したように首に手をあててみると、固く無機質に自分に張り付く首輪。 目を閉じると誰かの肩越しから見た血の海が見える。 不思議と体の震えは止まり、汗が出つくした体は冷え始めていた。 リュックを背負い直し、だいだひかるはまた歩き始めた。 ついさっき出会ったばかりの背中の黒い塊が、自分を支配しているうに感じた。 今でも1から10までは思い出せない。 出したくもなかった。 だいだひかるは自分がこの黒い塊を構える姿を想像した。 「はは、似合わないなぁ」 何故だか笑えてしまう。 私は誰かを殺すんだろうか? 私は誰かに殺されるんだろうか? だいだひかるは歩いていた。 ただひたすら歩いていた。

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