教室の中は静まりかえっていた。 ぐす、といつまでも子供の様にしゃくり上げる小沢の肩をぽんと叩き、井戸田は前を向いた。 周りの芸人たちも小沢同様に虚ろな表情をしている。当然の事だ。目の前で見知った芸人…ビッキーズが殺されたのである。 けして嫌なコンビではなかった。むしろ人が良く、好かれるコンビであった。 井戸田はぎり、と歯を噛み締めた。 「他にコイツみたいに『怖いから戦いたくなーい』って奴はいるか?」 プロデューサーが馬鹿にしたような声を上げる。 当然のごとく手を挙げる者はいない。 突然目の前に突きつけられた「死」に、芸人全員の頭の中に恐怖と混乱が渦巻いていた。 「小沢さん、」 井戸田は小さい声で小沢に語りかけた。 小沢はゆるゆると顔を上げる。 「どうする?」 突拍子も無い質問に小沢の表情が凍りつく。 周りの芸人を殺すのと、自分たちが即座に殺されるのとどっちがいいのか?…選べるわけが無い。 「わかんないよ…」 消え入りそうな声で答えが返ってくる。そうか、と井戸田は答えた。 井戸田は迷っていた。 「それじゃあ、皆さんに武器を支給しまーす。コンビ名呼ぶから取りに来て下さい。武器を取ったらスタートです。」 プロデューサーの声が酷く煩い。 ―どうする?今すぐ死を選ぶか?生き残るか?…殺されるか? 震える手で涙を拭う小沢をじっと見つめる。 ―死ぬ?俺達が? 井戸田は顔をすぐに上げた。その目に迷いは無かった。 ―生き残ってやろうじゃねえか。 「次、スピードワゴン。」
兵士から受け取ったナップザックには少しばかりの食料と武器が入っていた。 井戸田の武器は小型のアーミーナイフ。小沢のは何も付いていないただの鎖だった。 どうやら「ハズレ武器」というのがあるらしく、小沢のもマシな方だがその部類に入るらしい。 ともかく、ハズレだろうが何だろうがこの二つが唯一二人を守ってくれるものだった。 「スピードワゴン、出発してください」 兵士の無機質な声が響き渡る。まるで死刑宣告を受けたみたいだ、と小沢は思った。 「行くぞ。」 井戸田は振り向くこと無く教室から出て行く。小沢はちらりと教室に残っている芸人を見てから井戸田の後に続いた。 ただ無言で井戸田の後を着いていく。 そんな小沢には自分より小さい井戸田の背中が大きく見えた。 「…この先どうするの?」 「どうするも何も…とりあえず生き残るしかねぇだろ。」 自分に言い聞かせるように呟きながら、井戸田は振り返る。 「殺されそうになったら…まぁそれはその時だけど…」 バツが悪そうに頭を掻いた後、小沢の肩を強く掴んだ。 「誰も殺さない。いいな。」 井戸田のそのまっすぐな目を見て、小沢はゆっくり頷いた。

こうして、ゲームは始まった。

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