先程からあちこちで聞える銃声や爆発音。 これだけ盛んに戦闘が行われているなんて――。 いつここ山田は恐怖で手が震えた。後ろでは相方の菊地が先程から延々と何か言っている。 『あいつら絶対殺してやる』とか言っているあたり、一時間ほどまえに完敗したインパルスのことを言っているのだろう。 弱ったな――。山田は頭を抱えざるをえなかった。 島に響く銃声から、やる気なのは菊地だけでは無いということは明白だし、何しろこっちは丸腰だ。
 「くっそ――。あともう少しで殺せたんだ!!なのに邪魔しやがって!!」
そんな相方菊地の声に、銃を奪われたことは不幸中の幸いだったのかも――と思わざるをえなくなっていた。 これで銃を持っていたら菊地はきっと、再び他の参加者を殺そうとするだろう。 それは二人で生き抜くためでもあるし、山田自身の命もかかっていること。 だから表立って菊地が殺しを行うことを止められない。自分にだって死にたくないという気持ちはあるからだ。 けれどやはり、こうして今まで一緒にやってきた相方が殺しを行っているところなど見たくなかった。 菊地の手が血に染まって汚れていくのを見るのは、苦痛だったのだ。
 「けど、殺さないでくれたんだから――」
 「はぁ?!何言ってんだ。そもそもお前が板倉に捕まらなかったらこんなことにはならなかったんだぞ?」
菊地の苛立ちは止まらない。今度は自分にもその怒りの矛先が向いたのを山田は感じた。
 「わかったけどよ、取り合えず代わりの武器を調達しないと」
こんな辺鄙な島の中では貴重なほうなのだろう。 民家を抜けてコンクリートで出来た遊歩道を歩いていった先には、大きなホームセンターがあった。 ここでなら様々な物資も手に入る。こういう場所は人が集まりやすい、という危険性もあるが。
 「どけよ」
前を歩く山田を押しのけて、菊地がホームセンターの中へ入っていった。 無人の店内は夜のため暗く、さらに何故か正常に機能している自動ドアは僅かながら山田に恐怖覚えさせた。
 「誰かいるかもしれないから気をつけ――」
突如足を止め闇の中立ち尽くす菊地。一体なにが――? そう思う間もなく嗅覚に来たソレ。ホームセンターの中は、“鉄のような臭い”で満たされていた。
「なんなんだ一体――」
噎せ返るような臭い。プログラム中ということもあり、これは当たり前のものなのかもしれない。 “血”だ。誰かの血が――半端な量では無い――この床にぶちまけられている。
 「くそっ。出るぞ」
数歩中へ入った時点で身を翻し、菊地はドアのほうへと戻りかけた。 それは正しい判断だ。こんなところ、あと一分でもいたら気が狂ってしまう。山田も菊地に続こうとした、そのときだった。
 「――どこへ行くんだよ?」
 「!?」
突如広い建物の中、声が響いた。それは菊地でも、勿論自分のものでも無い。 誰かいる――。一番危惧していたことが、現実となった。
 「だ、誰だ!?」
一歩後ろで菊地が怒鳴った。いくら強く言っても、声の震えは隠せない。 今の今まで『殺す』などという言葉を吐いていた人間の声とは思えなかった。
 「さて、問題。俺は一体誰でしょう?」
楽しむかのような声。どこかで聞いたことのある声のような気もするが――思い出せない。 呆気にとられる二人を見て、暗闇の向こうの“誰か”は笑っているような気がした。
 「いい加減にしろよ!だ、誰なんだ?!」
この血の臭いからして、ここで誰かが死んでいるのは間違いない。そしてそれを殺した犯人は、この声の主である。 何の武器を持っているのかはわからないが、相手にやる気がある以上、ここは早く逃げないとまずい。山田は命の危機を感じた。
   「逃げよう」
小さく呟いたその声は、菊地の耳に確かに届いた。しかし――
 「はい、残念。時間切れだ」
その声と同時にぱらららららっ、とタイプライターのような音が響いたかと思うと、 目の前の菊地が血を撒き散らしながら後方へ吹っ飛んだ。 どさっ、と地面に体が打ちつけられる音がした。 銃声の余韻がまだ残っている。一瞬で目に焼きついたとのは、暗闇の奥のマズルフラッシュ。 一瞬山田の頭の中は真っ白になった。
 「――菊地?」
隣でぐったりと横たわる相方の姿に、山田の声は震えた。 すると突然山田自身の首輪から、ピッピッと規則的な電子音が発せられる。
 「な――なんだよこれ?!なぁ?!死んじゃったのかよ!?おい!」
自分の首輪を引っ張るも、当然外れるはずもない。電子音の間隔はしだいに小さくなっていく。
 「なぁ!!菊地!!おい!菊地ぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
耳を劈くような絶叫。次の瞬間には爆発音。一層血の臭いが強まった。

   「死んだか」
満足そうに笑みを浮かべる男。 暗闇の奥から現れたのは、Diceだった。 白いシャツにまるで模様のようについた血飛沫が鮮やかだ。 トレードマークの黒いスーツとサングラスは、闇に溶け込むには充分だった。
 「いつここ、かぁ。まぁまぁかな」
死の臭いが満ちたホームセンターを出て、Diceは思いっきり深呼吸をした。
 「優勝できそうだな、この調子なら」
時計を見ると、午前4時。あと2時間後の放送の時までにどれだけ人数が減っているか、見物だな。 そうにやりと笑ったDiceは新たな獲物を探すべく歩き出した。

――へらちょんぺ 死亡
――いつもここから死亡

【残り55組】

本編  進む

乃 ◆5DYYl3NWdY
SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO