もう、混乱する事はなかった。  そう、ただ、悲しい。
「なんで、殺し合いなんやろな……」
 塚地は呟く。
「俺ら、お笑い芸人やん……」
 木にもたれるようにして座っている鈴木は、俯いたまま答えない。もしかしたら、もう寝ているのかもしれない。  塚地は寝ずの番を買って出ていた。彼の何倍も活躍した鈴木を気遣っての事でもあるが、どうせ今夜は眠れないと思ったからだ。  今でもまだ、命を奪われた者たちの姿が目に焼き付いている。  その内の一人は、彼がその手にかけた。右手に生々しく残る、吹き矢を刺した感触。
「結局……やってしまったんやな」
 自分のために、他人を殺した。  そう――自分も同じだ、ダーリンハニーと。  罪を背負う覚悟も、何かのために生きるという決意も、何もなく。  ただ、人を殺めた。
「殺す理由も、殺される理由も、あるはずがない。……俺らはみんな同じ、お笑い芸人なんやから」
 彼がお笑いの道に進んだのは、単純に、人を笑わせるのが好きだったからだ。  今ここで、武器を手にして戦っている芸人たちは、殺し合いが好きか?  殺し合いをするためにエンタに出演したのか?  そんなはずはない。みんな、塚地と同じ、お笑いが何より好きな連中のはずだ。
「なのにどうして……どうしてバトルロワイアルなん?」
 金。視聴率。権力。政治。大人の、人間の、醜い部分。 「みんな本当に、そんな番組が見たいんか? エンタ見て笑ってくれてた人たちが、殺し合い見て楽しめるんか?」  どこかにあるかもしれないカメラに向かって、塚地は独白する。  これは、演技じゃない。演技なんかじゃないんだ。  俺は、心から、お笑いをやりたいと思ってる――!
「鈴木」
 寝ているはずの鈴木に塚地は語り掛ける。
「お笑いやろう」
 例えブームが終わったとしても。
「こんなゲーム見て笑ってる奴らに、本当の笑い教えてやろう」
 誰一人それを求めていなくても。
「俺らのライブで、視聴率思いっ切り上げて……プロデューサー見返してやろうや……!」
 最後の最後まで、笑いのために生きてやる。  何故なら彼は、お笑い芸人なのだから。
「……塚っちゃん」
 その時鈴木が、同じ姿勢のまま話し掛けてきた。
「塚っちゃんはもう戦わなくていいよ……俺が塚っちゃんの分まで戦う」
「鈴木……」
 途惑う塚地に、鈴木は言葉を選ぶように、ぽつりぽつりと言った。
「お笑いのために生きるんだろ? だったら、人を殺すのはおかしいよ。……だから俺は、嫁と子供のために戦う」

 そうやって、二人の力で生き延びて――
 そしていつか、最高のコントを見せてやろう。
 悲劇に満ちたこの場所で。


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