早朝の森を走り、振り返った時にはもう人影は見えなくなっていた。 確かこっちだったはず。 堤下は、同期であり仲良しのアホマイルドの姿を探した。 もう走る必要はないので、ゆっくりと歩を進める。
 「――あ、板倉さん、大丈夫?」
荒い息遣いに首を回すと、肩で息をした板倉が 堤下の歩調に合わせようとなんとか頑張って足を動かしている。 そういえば板倉は、足の速さは中々だし体操も得意だが、なにより体力が無い。 一方自分は野球で鍛えた根性と体力はある。こうして疲労具合に差が出るのは当然だ。
 「ごめん、もっとゆっくり歩くよ」
 「いや、大丈夫大丈夫」
 「けど――」
 「いいってば」
 「じゃあそれ持つよ」
返事を待たず、堤下は板倉が抱えるグレネードランチャーをひょいと取り上げた。 結構重量感があり、体力的にきつい板倉に持たせるより自分が持ったほうがいいだろう。 それにしても毒ガスなんて――。 ガスマスクも無いしそもそも使うつもりが無いので、これを所持していることは無意味な気がしてきた。 まぁ結果的に塩コショーの二人の手にかかる犠牲者が減ったかもしれない。 けれど持っていても荷物になるだけだし、どうすればいいんだろう?そこらに捨ててくには危険すぎるし――。
 「おい、堤下」 板倉に肩を叩かれハッと顔を上げると、数十メートル先を歩くアホマイルドの姿が視界に入った。

 「おーい!!」
堤下が手を振ると、向こうもこちらへと駆け寄ってきた。 NSCの同期であり、地元か一緒でもあるアホマイルドの二人との再会。 堤下は満面の笑顔で二人を迎えた。
 「助けてくれてありがとう」
同じく笑みを返す坂本は、少々息切れ気味だ。 結構長い距離を、あの二人から逃げていたのだろう。
 「いやいや、いいんだよ。っていうかほぼ板倉さんの活躍だし」
突然会話に名前が出てきたのに驚いたのか、 板倉は、「俺?」とでも言うように自分を指差した。 どう考えたって自分は何もしてない。上手く塩コショーを転ばして グレネードランチャーを素早く奪ったのは板倉だ。 いつものことながら、板倉の俊敏さには驚かされる。 俺も頑張らなきゃ――。堤下は自分に喝をいれた。
 「そっか、ありがとう」
坂本に続き高橋も礼を言った。
 「取り合えずどっかに座んねぇ?」
しばらく寝てない上に先程走ったのがよほどこたえたのだろう。 けだるそうな板倉は顔色も悪い。まだ朝だが、睡眠をとったほうが良さそうだ。
 「じゃあ、せっかく合流できたことだしどっか移動しよっか?」
いつのまにかまとめ役のようになっていた堤下の言葉に他の三人は頷いた。

先程の場所から少し歩いたところにある民家。 この森のすぐ近くにあった畑の持ち主の家だろうか。 ともかくそこへと入ったインパルス・アホマイルドの四人は すぐさま鍵とカーテンを閉め、朝食をとることにした。
 「板倉さんもパン食べようよ」
ナップザックの中にあった 堤下は支給品のパンを差し出したが板倉は首を横に振った。
 「俺、いいや。ちょっと寝てもいい?」
普段食に関して欲があまりない板倉は、 ネタを書いている最中、自分が差し入れしてもあまり食べない。 そうやっているうちに徐々にやつれていくのが目に見えてわかるからとても心配なのだ。 特に今回は、体力が無ければとても生き残ることなどできない。
 「でも食べたほうがいいって。まじで今回はやばいよ」
 「いや、寝るよ」
そう言って、居間の隣にあった寝室へと姿を消していった。 高橋と坂本の二人も心配しているようだ。板倉が入った部屋のドアを心痛な面持ちで見つめている。
 「大丈夫かな?」
 「…あのさ、ここに食材とかあるよね?」
 「あると思うけど」
 「俺、板倉さんになんかメシ作るよ」
堤下は立ち上がり、台所に立った。 やはり心配だ。仲間との再会の余韻に浸りたい気持ちもあったが、まず優先すべきは相方の体。 棚を空けてみるとレトルト食品と一緒にジャガイモがあった。 これだ。――板倉の好物、ジャガイモ入りカレーを作ろう。

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