「何なんだよ、これ!!」 インスタント・ジョンソンの二人は、思わず叫びだしそうになった。 二人...そう、ゲームに参加させられてから一言も喋らないジャイ以外の二人。 どんな概観であれ、今この状況で建物の中に入るのは、ある意味賭けだ。 誰かがいるかもしれないから。 その誰かは巣を張って獲物を待っているかもしれないから。 ゲームが始まってから、スギ・ゆうぞう・ジャイの順番で一列に歩いてきた。 ゆうぞうは、他の二人と違い、あからさまに不利な武器だった。だからゆうぞうを中間にしたのだけど... やっぱりジャイの武器をゆうぞうに渡し、ジャイを中間にして歩くべきかと、スギが思い始めていた頃、その小屋を見つけた。 用心深く、そっとスギはドアを開けた。 賭けには、勝った。一目で全て見渡せる、何も無いがらんどうの小屋。そして、誰もいない。 三人は車座になって、座った。 スギは出刃包丁、ジャイは拳銃、ゆうぞうは...玩具の方のパチンコを渡された。 三十代前半の彼らにしても、馴染みの無い玩具だった。ドラえもんやサザエさんや赤塚富士夫のマンガとかでなら見たことはあるけど、 それで遊んだ事は無い。ましてや、実物を見るのは初めてだった。
「俺だけ、露骨に不利だよね。」
呟くように、ゆうぞうが言った。
「いや、そうでもないよ。相手にパチンコ当てて、怯んだ隙に逃げるとか。」
「でも俺、これで遊んだこと無いし、当てる自信なんて無いよぉー」
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。確かにそうかもしれないが、パチンコの玉は、無限にあるわけじゃない。 下手な鉄砲も...いや、それは無いだろうと思いつつ、ジャイの肩を掴んで揺すりながら
「ジャイ、拳銃って、撃った事ある?」
ジャイは首を横に振った。 まあそうだろうなと思いつつ、スギは、一応ジャイはこちらの問いかけに反応してくれた事に、ほっとした。
「念のために聞くけどゆうぞう...」
「ないよーそんなの!」
そういう意味でなら、ジャイとゆうぞうの武器の、不利・有利は変わらない。 ジャイの拳銃の弾だって、無限じゃない。命がけで俺達を殺そうとする人間に、咄嗟に当たるとは思えない。 ただ当たった時、拳銃の方が殺傷能力が高いだけで。 殺傷能力...はっとして、スギは言った。
「なあ、このゲームだけど...」
「やだよ、俺、人殺すのも、殺されるのも嫌だよ!!」
ゆうぞうは、スギの言葉を遮るように言った。
「ジャイは?」
スギはジャイの肩を揺さぶりながら聞いた。 ジャイは何の反応も示さなかった。 ゲームが始まってから、ジャイはずっとこんな感じだった。 ショックのあまり、口がきけなくなった人の様に。外界に全く反応出来なくなった人の様に。 不利な武器を持ったゆうぞうを中間に、と言うより、他の二人の後をふらふらとくっついて来た、そんな按配だった。 俺だって、そんなのは嫌だ。 スギはそう思った。 でも...仮にジャイがいつも通りだったとしても、その拳銃の弾が相手に当たるとは限らない。 拳銃より不利な武器を持った相手なら、見せるだけでも威嚇になるだろうが、同等の武器だったら... 尤も、このゲームの参加者のほぼ全員が、拳銃を撃った事など無いだろう。 でも本当にいざとなったら、この包丁なのか? そうなんだろうな。本当にいざとなったら、俺の、この出刃包丁が、実は一番有利なんだろうな。 やるのか、俺が...嫌だ。でも俺達の誰か、例えば俺だとしても、やられたら... 実際この小屋に辿り着く迄に、いくつも死体を見てきた。 銃声や爆発音や叫び声の音、血の臭い、少しでもそんなもの感じたら、それを避ける様にして、そしてこの小屋に辿り着いた。 それなのに、いくつもの死体を見てしまった。 その度に、変わり果てた自分達の姿が、スギの頭を過ぎった。
「ジャイも多分...その気はない。」
ジャイは何の反応もしなかったのに、スギは無理矢理まとめた時、銃声が聞こえた。 この小屋のすぐ側ではない。でも、そう遠くでもない。 やっと辿り着いたこの小屋、でも、ここも安息の地ではない。ここには、安息の地なんて無い。
「取り合えず、ここを出よう。」
三人は小屋を後にした。 銃声が聞こえた逆の方向へ歩いていく内に、嫌な臭いが鼻を突いた。 肉の焼ける様な臭い。そしてそれに混じった、血の臭い。
「これ以上、ここに近づかない方がいい。」
スギは踵を返そうとした。が、ジャイは、その臭いに引き付けられるかの様に、その方向へ、無言で歩いていった。
「行くな、ジャイ!」
ゆうぞうはそう叫びそうになったが、ここで大声を出すのは危険だ。 仕方が無く、二人はジャイの後に着いて行った。 やっと、ジャイが立ち止まった。 そこで見た風景。ゆうぞうとスギは叫びだしそうになった。 尤も、叫んだ所で、ヒロシの心には響かなかっただろうが。
血まみれの死体は、放送でもう死んだことは知っていたが、いつもここからの菊地さんだろう。 焼死体は、山田さんなのか? ヒロシさんが、山田さんを焼き殺したのか? 山田さんを慕っていたヒロシさんが? だとしたら、菊地さんの首輪は炸裂しているはずだ。それ以前に、菊地さんはマシンガンか何かで遣られたかの様に、血まみれだ。 ゆうぞうもスギも、困惑している中、
「河を、渡らなきゃ。」
ずっと、一言の喋らなかったジャイが、小声で呟いた。
「ジャイ、今何て言った?」
ゆうぞうの問いに答える前に、ジャイは引き金を引いた。 ヒロシは山田の遺体の上に崩れ落ちた。
「こんな事になるんなら、ジモンさんに格闘技教わっておけば良かったって、言ったんだよ。」
ゆうぞうの問いに、ジャイはそう答えた。
「初めての練習台にしても物足りないけど...だいたいコツは掴んだ。」
こいつ誰だ? ゆうぞうは背中に冷たいものが走った。 確かに目の前にいるこいつ、容姿も声も、何時もの、何を考えているのか何も考えていないのか良くわからない笑顔をも、 俺の良く知るジャイだ。 そう思ったゆうぞうとは対照的に、スギは深い安堵を感じていた。 ジャイがいれば、俺はいざとなった時、人を殺さずに済むかもしれない。 そして...次の瞬間そんなことを考えた自分に、激しい後ろめたさも感じた。

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