「……どうする、柴田」  山崎は声を潜めるようにして柴田に訊ねた。 「どうって……このまま立ち去るわけにはいかねぇだろうが」  柴田はこの場にいるもう一人の人物に向かって声を掛ける。 「お前はどうしたい?」  柴田の問いに、その人物は、今にも消えそうな声で答えた。 「オレはもう一度、増井さんに……相方に、会いたいです」  ハロ・竹内。  彼が何故このような傷を負ったのか、彼の相方が何故ここにいないのか、アンタッチャブルの二人は既に聞いていた。 「酷いな、怪我した相方を置き去りにするなんて……」  思わずそう言ってしまった柴田に、竹内は首を横に振る。 「あいつの事、責めないでやってください……。あいつも、あいつなりに、何かしようとしてると思うんです」  ハロの死亡は、既に確定してしまった事だから。  しかも増井は、単なる道連れで。 「オレ、最後までちゃんと、ハロとして一緒にいたい……。増井さんにとっては迷惑かもしれないけど、それが、オレの責任だと思ってる……」  苦しげにいう竹内の肩に、柴田は、もういい、というように自分の手を乗せた。 「なあ山崎、探してやろうぜ、“増井さん”をさ」  柴田が言うと、山崎も大きく頷く。 「そうだなー、幸いこんな物もあるし」  山崎が持ち上げたのは、プラスチック製のメガホン。増井が置いていった武器だった。 「まっすいさーん! ハロの増井さーん! 相方様がお呼びでーす!!」 「おい! 大声出すなって、誰かが襲ってきたらどうすんだよ!」 「えー、でも、せっかくメガホンがあるのに……」 「あるからって使えばいいってもんじゃねぇだろうが」  山崎にきっちりとツッコミを入れると、柴田は竹内の方に屈みこむ。 「お前、一緒に来る? それともここで待ってる?」  動けば出血は酷くなるだろうし、死期が早まるのは明白だ。  しかし、ここで待ってるとなると、アンタッチャブルが増井を見つけてから戻ってくるという手間が必要になる。目印も何もない林の中、迷ってしまう事もないとは言えないだろう。  竹内は少しだけ逡巡した後、一緒に行きたい、と答えた。  自分と相方の事なのに、ただ待っているだけなんて出来ない、というのがその理由だった。 「じゃあ、俺の肩につかまって」  柴田は竹内を肩で支えた。その状態なら、どうにか足を動かせるようだった。  ライフルを持った山崎が、ボディガードのように二人の前に立つ。どうにも捨てがたかったのか、メガホンをナップザックに引っ掛けていた。 「増井さん、どっちに行ったかわかる?」  山崎の言葉に、竹内は迷う事なくある方向を指差す。それは偶然にも、アンタッチャブルが目指していた方向と同じだった。  しかし二人は、その事について深く考える事はしなかった。 「よし、行こう」  重傷の竹内をかばうように、ゆっくりと、しかし確かな足取りで、彼らは歩き始めた。  もちろんアンタッチャブルの二人は知らない。  増井がメガホンの代わりに、何を手にしたのかを。

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