そして、敢えて、枝葉を揺する様なざわめきが、窓の外から聞こえた。 誰かいる。 ジャイは躊躇したが、テーブルの上に置いておいた拳銃を握り締め、そっと窓を開けた。 「クスクス、君、渡辺(ジャイ)君でしょ?」 声は、窓から2m位離れた木の上から聞こえた。枝葉に隠れて、姿は見えない。が、銃口を、声を頼りに向けた。 「僕を撃ってもいいよ。でも、僕が死んだら僕の相棒の首輪が反応するでしょ?そしたら僕達も死んじゃうけど、反応した瞬間爆発する前に君と君のお友達も死んじゃうよ。クスクス。」 「!」 「死にたくなかったら、僕の言う事聞いてね。君のお友達はよく眠っているかい?」 「...ああ。」 「じゃあピストル持ったまま、窓からこっちへ来て。よーく眠っているお友達を起こしちゃだめだよ。クスクス。」 はったりかもしれない。しかし...そう思いながら、窓から外へ出ようとした時、 「あ、でも、今の渡辺君の足で、窓枠乗り越えられるかなぁ、クスクス。」 何で俺の足の怪我を知っているんだ!? 「ああ、何とかね。」 いざという時の為に、ずっと靴を履いていた。だからそのまま窓から外へ出て、まだ傷が痛むのか、左足を軽く引き摺りながら木の下に行った。 「別にね、君と君のお友達を殺すつもりは無いよ。クスクス。ただ、僕と僕の相棒と取引しないかい?」 「取引に応じなかったら、俺達を殺すつもりだろ?」 「ピンポーン。渡辺君、見た目と違って物わかりがいいね、クスクス。」 見た目と違ってだと!ジャイは少しムっとした。 「取引の内容は後で話すよ。だから僕に付いて来て。」 ジャイは眠っている二人をそのままにしていく事に躊躇したが、男はもう、別の木に飛び移っていた。 「足が痛いの?クスクス。」 「今、行くよ。」 もう15分位歩いただろうか。 男は下へ降りず、木から木へと飛び移りながらジャイを誘導した。 「まだ?俺、足痛い。」 「もう少しだよ。でもここで引き返してもいいんだよ。引き返したら、渡辺君が家に着く前に君のお友達、死んじゃうし、そうなったら渡辺君もどうなるか、わかるよね?クスクス」 「それはわかってるけど、どういう意味だよ。」 「あの家ね、元々爆弾が仕掛けてあったの。と言うより、僕達が爆弾仕掛けたの。その爆弾が破裂するリモコンは、僕の相棒が持っているの。クスクス。」 「...それで、敢えて俺を選んでここ迄連れてきたのか。」 「ピンポーン。本当に渡辺君、見た目と違ってよくわかるね。クスクス。」 男の、クスクスと言う笑い声と口調が耳障りだった。あと、見た目と違ってと言う言葉にもイラついたが。 そして、それ以上にむかついた事があった。 ともかく自分の首輪が炸裂していない以上、2人が無事でいる事を信じるしかなかった。 大男が双眼鏡で、インスタント・ジョンソンの3人が緑色の家に入っていくのを見ていた。 割と遠くで見ていたので、3人の会話までは聞こえなかったが。 「誘き出すのなら、渡辺って奴がいい。あの佐藤(ゆうぞう)って奴は案外用心深い。杉山(スギ)って奴は結構筋肉質だ。それに渡辺は背おわらなければならない程の傷を負っているみたいだし、ピストルを持っている。」 大男は双眼鏡で見た状況を伝えた後、相方の小男にそう言った。 「さて、どうやって、あいつだけを誘き寄せるかだけど...」 「ドアの前で、『あ、美味しそうな物がある』ってのは?」 小男がそう言った。 「馬鹿、コントじゃないんだ。それより」 大男は小男に思いついた事を伝えた。 「それがいいと思う。」 小男は同意した。 「ただお前の持久戦になるけど?」 「大丈夫だよ。どっちにしろ、僕達の武器、1度しか使えないんだし。」 それから小男はその家に近づいて、木に登り、双眼鏡で家の中を観察した。 その時はわからなかったが、ジャイがシャワーを浴びている時に木に登ったのが、ラッキーだった。じゃなかったら、気付かれていただろう。 そして渡辺...ジャイ1人を誘き出せる瞬間を待った。 それから更に10分位歩いただろうか。 こいつ、同じ芸人でもお笑いじゃなくて、軽業師になった方がいいんじゃないかとジャイが思い始めた頃、ようやくその男が木から自分の足元にすとん、と飛び降りてきた。 随分小柄な男だなと思った。 「ここで止まって。それから、そのピストル、頂戴。クスクス。」 「...それが、取引かよ。」 「うん、その代わり、僕の相棒が持っている爆弾のリモコンあげるから。」 小男が指差す先に、随分背の高い男が2m位先の木の下に立っていた。 「俺は君達を殺す気は無い。ただ、俺達が持っている武器は1度しか使えない。ずっと使える武器が欲しかったんだよ。だから、そのピストルを、俺に相棒に渡してくれよ。」 「...わかった。」 ジャイは渋々、小男にピストルを渡した。 小男はジャイからピストルを受け取ると、クスクスと笑い、また木から木を伝い、大男の足元にすとんと降りた。 「リモコンは、俺のポケットの中にあるぜ。さあ来いよ、ククッ。」 「クスクス。」 「...っつ、痛て...」 手負いの状態で歩かされたジャイは、傷口を押さえてしゃがみ込んだ。 「まあ、その状態で随分歩かされたからね。クスクス。でも早くお友達の所に帰りたいでしょ?グズグズしない方がいいと思うよ。クスクス。」 罠だ、多分。でも、もし...もし、俺の身に何かあったら、スギ、ゆうぞう、ごめん。 しゃがんだ状態のまま、ジャイはジーンズのポケットからずっと使っていた自分の拳銃の安全弁を外し(上にアロハを着ていたのでポケットのふくらみ迄は、小男は気が付かなかった)、自分の歩1歩分だけ先の地面を素早く撃った。 銃声とともに、ポス、という情けない音。そこから見える空洞。 「ふうん、そういう事か。」 爆発物ではないことに安心したジャイは、相手を油断させるために引き摺っていた左足で地面を激しく蹴り上げた。 草や土でカモフラージュされた布が、落とし穴の中に落ち、底から突き出た何本かの鋭い竹やりに突き刺さった。

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