もう空は暗く、視界は闇につつまれている。 名前順の出発だったため、彼らは全参加者69組中14番目。 まだ外にいる敵は多くない。危険も少ないだろう。 インパルス堤下は自分の隣で、支給されたナップザックを漁る相方に視線を向ける。
 「板倉さん、なにやってんの?」
 「いやー武器は何かなぁーって思ってさ」
そんなに大きな武器では無いのだろう。板倉はなかなかナップザックの中から武器を見つけられないらしい。 しきりに、「あれーねぇなー」と呟いている。
 「お」
二人並んで歩いていた堤下は、板倉が足を止めたことにより同時に止まる。
 「武器あったの?」
 「…メス?」
板倉の細い指が掴んでいたのは医者が手術の時に使うようなメスだった。 暗闇の中見えづらかったが、それは月の光を反射し怪しく光っている。
 「マジかよぉ、なにこれ。すっげー楽しみにしてたのによぉ…」
 「板倉さん、楽しみに、って。これは遊びじゃないんだから…」
そう言った堤下は、板倉の様子がおかしいことに気がついた。 その華奢な肩は震え、両の手はきつく握りしめられている。
 「…板倉さん?」
堤下は心配になり板倉の顔を覗く。すると――
「わかってんだよ!!遊びじゃねえことくらい!!」
突然大声を上げた板倉は、そのまま女の子のように泣き崩れた。
 「嫌だよ、俺まだ死にたくねぇよ!!なんでこんなことやんなきゃならねぇんだよ!!」
 「板倉さん…」
 「くそぅ!!なんだよこれ…嫌だよ…くそぅ…」
怒鳴り声は消え、代わりにすすり泣く声が辺りに響く。 どれくらい経っただろう。この泣き声がやる気のある者に聞かれなくて二人は幸いだったかもしれない。 先に口を開いたのは堤下だった。
 「板倉さん」
堤下はしゃがみ、泣き崩れた板倉の肩に手を置く。
 「顔上げて。大丈夫だから。板倉さんは俺が守るから」
堤下は板倉を立たせ、板倉の分のナップザックも持ち歩き出した。
 「…んだよおめぇ。気持ちわりぃ」
 「いやいや、気持ち悪いとかじゃなくて。俺が守るって言ってるの」
いつのまにか板倉の顔に、笑顔が戻っていた。
【残り68組】

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