12時の放送まであと 数時間。 毎回放送が近づくたびに気が重くなる。今度は誰が死んでいるのか、どれだけの犠牲者がでたのか…。 あまり同じところに(しかも家の中に)長いところ滞在しておくのは危険かもしれない。
 「ねぇ、そろそろここ出たほうがいいと思うんだけど」
インパルス堤下は目の前に座りやることもなくボーっとしている三人の仲間に呼びかけた。 ただでさえこの人数で目立つのに(プラン9よりはマシだと思うが) 必要な物資を求め人が入ってくる可能性のある民家にいるのはあまり良い考えとはいえない。 だから移動したほうがいいんじゃないか――。堤下はそう言った。
 「へーぇ、堤下のくせに結構頭回るじゃん」
 「堤下のくせに、ってどういう意味だよ!!」
板倉特有の皮肉にいつもの通り返す。 ニヤニヤと笑う板倉はカレーのお陰か大分元気そうだ。  まぁ板倉にそう言われるのも仕方ないかもしれない。 小中高と野球馬鹿だったから殆ど頭使ってなかったし、 通ってた高校の偏差値なら、板倉と自分だと雲泥の差だ。 ネタを書くのも板倉だし。 ――駄目だ、板倉さんと比べても鬱になる!! 堤下はすぐに考えを頭から払った。
 「まぁ、確かにここ動いたほうがいいな」
2人のやりとりを楽しげに聞いていたアホマイルド高橋も同意した。 坂本も頷いている。
 「よっしゃ、じゃあ移動すっか」
 「あ、待って板倉さん!!俺さ、もう一個提案があって」
ソファから腰を上げかけた板倉を制し、堤下は口を開いた。
 「こうしてさ、2人も仲間になったことだしさ、もっと仲間作らない?」
「仲間?」
板倉が怪訝そうにいう。 当然だ。四人なんて人数だけでも目立つし、たくさん仲間を集めれば それだけ危険も増える。信頼できるかどうか、など問題はたくさんだ。 けど――
 「わかってるよ。あんまり良い作じゃないことくらい。 けど俺は、今まで仲良かった人達が知らない間に死んでったりするの、嫌なんだ…」
堤下は拳を握り締めた。 死ぬ前に会いたい。放送で名前を告げられて、『あぁ、死んだんだ…』ってなるよりは 危険を冒してでも出来るだけたくさんの人に会いたい。今まで仲良くしてくれた人、 お世話になった人、共に頑張ってきた人――
 「そういえばさ、死んじゃったね」
ポツリと坂本が言った。 三人はすぐに理解した。 東京NSC4期生。お笑い芸人になることを夢見て共にやってきた仲間―― 椿鬼奴は数時間前の放送で、名前を呼ばれた。
 「同期のやつらには会いてーよな」
 「やつらってあと、ポイズンしかいないじゃん」
POISON GIRL BANDの2人も同期だ。 結構エンタの収録や他番組、ルミネなんかで一緒になったりする。 あの2人はまだ、名前を呼ばれていない。
 「じゃあ、ポイズン探す?」
高橋は少し不安に顔を曇らせ言った。 当たり前だ。探すといったってまったく手がかりがない。闇雲に歩いたところで会える可能性は少ないし、 会ったところで2人がやる気になっていないという保障などどこにも無い。 だがそんなこと言っていたら何もできない。やれるだけ頑張ってみればいい。堤下は大きく頷いた。
「え、ちょっとまってちょっとまって」
今度は板倉が挙手している。何か異論でもあるのだろうか?
 「え、やっぱりよしたほうがいいかな?」
控えめに堤下が尋ねると、板倉は首を横に振った。
 「ちげーよ。いや、誰か探すんなら塚地さんたちも探そうと思って」
 「あぁ!」
失礼な話だか、すっかり忘れていた。 なんで忘れてたんだろ、俺。 まだお互いが無名だったころから一緒に頑張ってきた仲間なのに。 鈴木さんなんて自分らが単独ライブやったとき劇場にわざわざ駆けつけてくれたしな。 その点板倉はちゃんと覚えていて立派だ。 まぁ板倉は、ロバート馬場やキンコン西野ほどじゃないにせよ 塚地さんと一緒に飲んだりするらしいし。
 「おまえ忘れてただろ?」
痛いところをつつかれ、苦笑いするしかなかった。
 「おし、じゃあそうと決まったら行こう!!」
坂本が荷物を持って立ち上がった。

 「待て!」

板倉が片手で坂本を制し、開いた手の人差し指を唇に当てている。 静かにしろ、の合図だ。
 「今、声が聞えた」  「――声?」
皆が耳を澄ませる。

『皆ー僕らの話を聞いてー!』

電子機器を通したような、関西弁の声。 この声の主は――
 「…レギュラー?」

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