「アカンなー…完璧騙されとるやないか。」「助けた方がエエんとちゃう?平井さん。」 木の上で身を隠し、アメリカザリガニの二人は今まさに波田陽区とアンジャッシュのやりとりを見て居た。 いや…正確には、波田が長井達の身体を切り刻む一部始終から、この二人は取り乱すわけでも無く波田を観察して居た。 たくさんの死体を見た。 自分達だって、不可抗力だとはいえ人を殺めた。 その事が幸を為したのか、二人は狂気に支配されるでも無くここまで生き続ける事が出来た。 (渡部さんなら…気付くと思うてんけどな…) 波田の笑顔に隠された狂気を。 「とりあえず、下りて接触した方が…」 「いやそれはアカン。児嶋さんは波田の事えらい信用しとるみたいやし、混乱に紛れて逃げられるかもしれん。」 「じゃあ…どうすれば…」 このままだとアンジャッシュの二人はいつか必ず波田に殺されてしまうだろう。 その前になんとかしなければ…。 「とりあえず追うか。何かエエ考えが浮かぶかもしれんしな。」 充分に距離をとり、二人は波田達を監視し続けた。 どれぐらい歩いただろうか、前を歩く三人は一向にペースを落とすわけでも無くひたすら歩みを進めている。 (なんや…おかしないか?) 平井がその違和感に気がついたのは、30分程歩いた時だった。 そして後ろにいる柳原の方を向き、小声で話しかけた。 「ヤナ、なんか違和感感じんか?」 「え?…そういえば…渡部さん、怪我してるみたいなんに一向に休まへんなー…」 (違う…そんな事じゃ…) 平井は少し目を細め、波田達の方へ向き直った。 その瞬間(とき) 平井は自分の目を疑った。 (居ない!?) 確かに今迄そこに居た筈の三人が姿を消していた。 (まさかっ…!!) 「逃げろ、ヤナ!!」 「え…?なっ、…!!」 後ろを振り向いた時にはもう遅く、波田の振り上げた鎌が、柳原の腕を血で染め上げていた。 「ぐぁっ!!……波田…!」 「なんで僕達の後を付けてたんですかー?」 柳原に気を取られている隙に、平井の前には児嶋のナイフが突き付けられていた。 「児嶋さん…」 「…」 児嶋は何も言わずに、ただ目を逸らした。 波田は尚も話続ける。 「気付いてたんですよ?ずっと、僕達の後を付けてましたよね?」 波田は鎌に付いた血を振り払いながら平井を睨んだ。 「僕達を殺すつもりだったんでしょ?」 「違っ…、俺達は」 「言い訳しても無駄ですって」 ジリ…っと柳原から目を離し詰め寄って来る波田。 三人の視線が一気に平井に突き刺さる。 柳原は当分動けないと思っているのだろう、誰も気にかけるでも無かった。 だが、平井は気がついていた。 先程から柳原がチラチラ視線を送って来る事に。 (…なんやエエ作戦でもあるんやろか…) 柳原の考えている事はわからないが、時間を稼いだ方が良いだろうと平井は声を発した。 「…渡部さん…気がつきませんか?」 「…何を?」 「違和感に、ですよ」 「……」 (この人は何か感づいとる。ただ、俺達と同じで実行できへんだけや) 「渡部さん…!!」 「黙ってください」 再び波田に睨まれたが、平井は続けた。 「波田は渡部さん達を殺すつもりです!!」 「……!!」 「渡部さん!聞いちゃ駄目です!」 渡部の目が平井を映す。 隣りにはとまどい顔の児嶋。 その様子に明らかに波田は焦っている。 (今や、ヤナ!!) 波田が鎌を振り上げるのと柳原が素早く立ち上がるのはほぼ同時だった。

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