大丈夫だろうと思ったが、念の為、何時もの様に、用心深くアジト代わりに家に入った。 やっぱり、誰かに入られた形跡は無かった。 四人は車座になって、タバコを吸った。 「あのさあ、高橋さん、人質からの忠告。」 ジャイが口を開いた。 「もし襲撃された時は、抵抗があると思うけど、頭を狙った方がいい。心臓に当てるのは、初心者には先ず無理。腹でもいいけど、そっちの方が当てやすいけど、防弾チョッキ着てたら意味無いから。」 嫌だ!人を殺すなんて... でもさっき見た光景。そしてジャイさんがあの二人を射殺してなかったら俺達はどうなっていたか。 言えない、そんな事。 そんな高橋の心情を察したのか、 「まあ、いざって時だよ。殺さないに、越した事は無いしね。あ、後、これだけは絶対出来た方がいい。かなり高度なテクニックで、俺も出来ないんだけど。そっちの方の拳銃貸して。」 貸してと言っても、元々ジャイの拳銃なんだが。 ジャイは使い慣れた方の拳銃を受け取ると、カウボーイの様に人先指で引き金の部分をくるくると回そうとして、失敗し、落としかけた。 「高橋さん、これは練習しておいた方がいいよ。」 「...それが出来ると何か」 「これが出来ると...かっこいい。」 「それ意味無いじゃない。」 ゆうぞうがツッコんだ。 「じゃ、スギ、ゆうぞう、人質交代して。俺、この辺の様子、見に行って来る。」 「一人で行くのか?」 スギが聞いた。 「うん、大丈夫だよ、そう遠く迄は行かない。何かあったら銃声で知らせるから。そっちも何かあったら銃声で知らせて。その範囲内より遠くへは行かないから。」 「でも、」 「じゃ、行って来なよ。気を付けろよ。」 スギを遮る様に、ゆうぞうが言った。 「うん。それに、俺がいない方が、高橋さんも休まるっしょ。」 そう言って、ジャイは出て行った。 ジャイが出て行って間も無く、今野が起き上がった。 「今野、良かった、今起きてくれて。」 本当に、さっき、茂みの中で起きなくて良かった。 「あ、高橋...」 まだ睡眠薬が抜けきっていないのか、トロンとした眼をしていた。 「俺、さっき、怖い夢を見たんだ。何でか知らないけど、皆で殺し合いをしなきゃいけなくなって。」 空ろな、ぼんやりとした声で言った。 「今野、それは夢じゃなくて、現実だ。」 「何で、インジョンさん達がいるの?」 はっきりと目覚め切って無くて朦朧としている所為か、高橋の言葉もよく飲み込めて無い様だった。 「俺達、席外すよ。」 ゆうぞうが言った。 「え...でも。」 と高橋が言った。 「俺達がこれ迄の状況話すより、高橋さんが今野さんに話した方がいいと思う。」 「ああ、そうだな、俺達も俺達で作戦会議するから、一旦外に出るよ。話が済んだら、呼んで。」 俺達の前じゃ、言い難い事もあるだろうしな、と、スギは思った。 ジャイが人を殺した事とか。 二人は外に出た。 高橋がこれ迄の事を話す内に、今野の意識もはっきりしてきた様だ。 ただ、高橋は、多分自分達と出会う迄に、既に何人かジャイが人を殺している事は伏せた。 「じゃあ、ジャイさんが俺達を助けてくれたって事?」 「ある意味そうかもしれないけど。」 「状況が状況だから仕方無かったんだしさ、信用してもいいんじゃない?」 「俺も、そう思うけど...取り敢えずまだ、ゲームをぶっ潰すことは伏せとこう。」 「...わかったよ。」 外に出たスギとゆうぞうは、別に作戦会議何かしちゃいなかった。 「ジャイ多分、この周辺の様子見に行ったんじゃなくて、高橋さんがいた木に行ったな。」 スギが行った。 「何で。」 「高橋さんと会った時、登りたそうにちらちら見てたから。あと、何で、あの木の枝を打ち落としたのかな。」 「証拠じゃないの?」 「あの枝の太さの割には、落ちた時大きな音がしたからさ。」 「相変わらずよく見てるな。」 「それからさ...」 「ん?」 「否、何でもない。」 あの悪夢を見てから、スギには気にかかっている事があった。 が、それを言ったら、ジャイが今迄自分達を守る為にやってきた事が何だったのか、と言う事になる。 それを思うと、ゆうぞうにも言えなかった。 「なあ。」 ゆうぞうが言った。 「俺達の方だけでも武装解除してもいいんじゃない?」 「ああ、そうだな。ジャイは真っ先に武装解除してると思うけど。」 実際ジャイは、高橋が隠れていた木に行っていた。 なるべく、二つの遺体を見ない様にして。 そして茂みの中に入り、さっき打ち落とした木の枝の先に括り付けられていた物を見た。 たまたま真下にあった大きな石の上に落下し、二つに割れてもう機能しないそれ。 ジャイは今迄押さえていた怒りをぶつけるように、勢いよく、ありったけの力で踏み潰した。 執拗な位何度も、もう壊れているそれを更に、踏み壊した。 そしてもう、ただの機械の屑同然になったそれ...かつて小型のテレビカメラだった物をもう一度踏み躙ると唾を吐きかけた。 わかっている、これ一台位壊したって無駄な事位。この島のあちこちに、何台も取り付けられているだろう。それらを一々壊して周る訳にも行かない。 でもジャイには、それまで押さえ込んでいた感情を叩きつける物が必要だった。 それから、スギの思っていた通り、高橋が隠れていた木に、登った。 高橋さんが隠れていたのは、この辺だな。これより高い所迄、登れるかな。 結構丈夫な木で、天辺まで登る事が出来た。 森の中、その周辺に細い道があるのは知っているけど、ここ迄登ると、それも見えない。屋根迄緑色の、自分達のアジトは、葉に隠れる蛙の様に見えた。 島の全貌を見渡せる程背の高い木では無いけど、この周辺は森や茂みが多い事は、わかった。 一見平和に見える風景。でもそこで、こうして見ている今でも殺し合いが行われている。 それこそ唾を吐きかけたくなる風景。 でもその唾は俺自身にも降りかかるな。俺自身が、殺し合いに荷担しているんだから。 昔読んだマンガで、一度羊を殺した者はもう羊に戻れない云々、書いてあったっけ。 あの時は、まさか俺がそんな苦悩を負うとは思わなかったけど。 俺は狼になれる程の精神的に強くない。でも、羊には戻れない。 ふと上を見上げた。自分が溶けて行きそうな程、空は青かった。 羊を羊の侭にして置く事は出来るかもしれない。それ位なら...その為にも、足を引っ張らないようにしないとな。 もう、ジャイの心に迷いは無かった。 そろそろ、戻るか、二匹の、否、四匹の羊の元へ。 ジャイは木から降りて、アジトにしている家に戻った。

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