ドランクドラゴンとアンタッチャブルは、ひとまず街のある方へと向かう事にした。人数が増えると、やはり森の中では動きにくい。それより、何かの建物を拠点にして動いた方がいいというのは、全員一致の意見だった。 「でも、危ないかな、街の方は……」  山崎は不安そうに呟く。  街に現在どれだけの人間がいるかはわからないが、林の中よりずっと敵に発見されやすいのは確かだ。彼らの目的からすると、隠れてばかりいるわけにもいかないのだが、殺されてしまっては元も子もない。 「まあ、アンタッチャブルの二人は銃を持ってるわけやから、向こうものこのこ出てきたりせえへんと思うけどな」 「ああ、逆にね。威嚇ってわけっすね」  塚地の言葉に、山崎は大袈裟に首を振って頷いた。 「ま、人が多ければ、それだけ仲間も見付かるって事で」  事務所の後輩であるキングオブコメディの名は、まだ放送されていない。  別の事務所でも、ドランクドラゴンと共にコント番組に出ているインパルスは、仲間になってくれる可能性が高いだろう。アンタッチャブルの共演者であるカンニング竹山は、残念ながら既に死んでしまったようだが。 「さてと……柴田、そろそろいいか?」  山崎は後ろを振り向くようにして、少し大きな声で呼び掛けた。 「ああ、もう済んだよ」 茂みの向こうから返事があり、柴田が姿を見せる。その少し後ろには、迷彩服のせいで見えにくいが、鈴木が立っていた。 「鈴木、手伝ってくれてありがとな」  首だけ振り返って柴田が礼を述べると、鈴木は小さく頭を振った。 「……俺がやった事だから」  二人の足元には、ハロの遺体が、寄り添うように並べられていた。土を掘る道具がなく埋葬する事は出来ないが、せめてもの弔いだった。 「ごめんな……結局、こんな事しか出来なくて」  全身を真っ赤に染めながら、それでもどこか微笑むような表情の竹内に向けて小さく呟き、柴田は相方たちの方へ向き直った。 「じゃ、行こう」  柴田が歩き出したので、鈴木もそれに従うように一歩踏み出した。何かを踏んだ感触があったが、特に気に留めはしなかった。



「はあっ、はあっ、はあっ……」  走っているわけでもないのに、南野の息は上がりっぱなしだった。斧を持った右手も、ナイフを握った左手もひどく汗ばんでいたが、南野の精神にはそれを気にするだけの余裕はない。  ――殺さなくては。  そんな衝動的な思いが、今の彼を支配していた。だが、頭に血が昇っているのは、ついネガティブな方向に考えてしまう彼にとって都合が良かった。  ――自分が戦ってなんになる?  自分も、椿鬼奴も、誰にも注目などされていないのに――。  こうして歩いている間は、今の自分を根本的に否定する、そんな考えに囚われずに済む。  しかし、体力と気力の限界は近かった。考えてみれば、自分はゲームの開始から一度も休んでいないのではないだろうか(もちろん、記憶のない時についてはわからないが)。それでも自分の考えに押し潰されるのが恐くて、立ち止まる事が出来なかった。 「犯人……早く見つけ出さないと……」  しかし、手掛かりは非常に少ない。  殺された時間は午前6時の放送とその一つ前の放送の間なのだろうが、それは南野が記憶をなくし、椿とはぐれて彷徨っていた時間帯と重なっている。  殺害方法もよくわからない。傷痕は、せいぜい針の先くらいのものしかなかったから、銃や刃物の類ではないだろう。だが、それ以外の方法で、どのようにして死に至らしめるというのだろう。  少し冷静になりかけていた南野だが、次の瞬間その思考回路は完全に吹っ飛ばされる。目の前に、血塗れの死体が転がっていたのだ。  叫び出しそうになる口を必死で押さえる。死体なんていくらも転がってるのに、いちいち悲鳴を上げるわけにはいかない。  落ち着いて見ると、その死体は明らかに不自然だった。相方らしい人物と並んで倒れているのだが、その並び方が、まるで寄り添っているようなのだ。  おまけに、血塗れの方は腹部から出血している上に首輪が爆発しているのだが、横の相方は、無傷のようにしか見えない。状況からして、無傷の方が先に死んだはずなのに――  南野はそこで気付いた。この男の死に方は――まるで、椿鬼奴のようではないか。  ならば、と、南野はその死体を隈なく観察する。死体に触れるのは気持ち悪かったが、ここは我慢するしかなかった。  そして彼は、死体の首の後ろにそれを見付ける。  針で差したような、小さな傷痕。  南野は素早く辺りを見回した。人影はない。しかしその代わり、重要な手掛かりが落ちていた。  誰かに踏まれでもしたのか、地面に減り込みかけていたそれは、針によく似た吹き矢だった。

本編  進む

音 ◆yOLxh0F1.c
SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO