ジャイがアジトに帰った時には、既に高橋は熟睡していた。 まあ、今野が起きているから大丈夫だろうと、拳銃を渡して。 「あ、ジャイさん。」 今野は楽屋等で何度か会った時と変わらない侭のジャイに、安心した様に少し笑った。 確かに高橋から、身を守る為とは言え、人を殺している事は聞いていた。でも実際にその現場を見たわけじゃないので、実感が湧かない。 お互いがお互いの人質なんて、そんな必要ないんじゃないの? 今野はそう思った瞬間、テーブルを見てある事に気が付いた。 武器が人数分以上に多い。 ジャイは寝ている時を除いて、安全弁をかけて慣れた拳銃を常にジーンズのポケットの中に入れていたが、スギとゆうぞうはテーブルの上に武器を置いていた。 壁に立て掛けてあるスコップとつるはしの事は聞いていたが、テーブルの上には、I字型の大きな磁石、出刃包丁、玩具のパチンコ、高橋が持っていた注射器の入っているプラスチックケース。 そして、ジャイが今持っている拳銃と、自分が渡された拳銃。 高橋の言った意味が、少しわかった気がした。 「あー、今野君、おはよう。高橋さん、よく寝てるね。」 その時、放送が流れた。四人は黙り込んで...ジャイは何時もの様に聞いているのかいないのかよくわからない表情で...聞いた。 高橋は目を覚まさなかったが。 「この音で、よく目を覚まさないもんだな。」 今野は一人ごちた。自分は睡眠薬で眠っていたんだけど。 「疲れ切っているとね、意外とこの程度の音じゃ起きないもんだよ。俺達も昨日の夜、交代で寝たんだけど、起きなかったし。」 と、ジャイが言った。 俺も、最初に寝た時、放送に気が付かなかったもんなと思った時、今野ははっとした。 「三人に聞くのもあれだけど...今の放送ではいなかったけど、人力の人で死んだ人っている?」 田上さん! スギとゆうぞうは、顔に出さない様に気を付け、言うべきかどうか、躊躇した。 「さあ、俺あんまり放送聞かないようにしてからさ。多分、いないと思うけど?」 ジャイは涼しい顔をして、答えた。 田上さんの事を言うべきか否か、高橋さんが決める事だ。俺達が言うべき事じゃない。それは、責任逃れかもしれないけれど。ジャイはそう思った。 目覚めたばかりの高橋に、今野は聞いた。 「ねぇ人力の先輩で、死んだ人いる?」 今野は知らないんだ、田上よしえさんが死んだ事を! 「さあ...俺も、ずっと修羅場状態だったから。放送聞いている余裕が無くて。多分、皆生きていると思うけど。」 今野にそれを話すべきかどうか、躊躇して、一旦保留にする事にして、そう言って高橋は誤魔化した。 「それより、俺が寝ている間は?」 「いなかったよ、誰も。良かった、皆生きているんだ、柴田さんも、塚地さんも、渡部さんも、田上さんも。」 高橋は、かなり失礼な会話をしている事に気が付いた。 高橋はインスタント・ジョンソン以外、この島にいる人間で、誰が太田プロか知らない。 もっとも、芸人だからって、誰と誰が同じ事務所か、詳しく知っている必要は無いのだけれど。 先輩や後輩の芸人がもう死んでいるかもしれない。 実際、太田プロではダーリン・ハニーが死んでいる。 田上さん、死んじゃったんだ...今になる迄、悲しんでいる余裕も無かったなんて。 と思った時、高橋ははっとした。 インスタント・ジョンソンが...ジャイさんが田上さんを殺したのか? 彼らだって知らないはずは無い。インスタント・ジョンソンも、田上よしえも、何度か同じ舞台に立っている。 だから、今野に黙っているのか? 複雑な心境の高橋に、 「はい、高橋さん、これ。」 と、ジャイは拳銃を渡した。

「インジョンとキングか。」 双眼鏡は、よく知らない芸人の死体の首にかかっていた。もう気持ち悪ささえ、感じなくなっていた。 はなわは双眼鏡でその家の窓の中を覗いていた。 馬鹿な奴らだ。五人じゃ目立つし、意見が割れたりして、身動きが出来なくなりかねないのにな。 プラン9の様に。 肩慣らしに、殺っておくか。 はなわはその緑の家に近づいていった。

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