「そろそろ、食糧の事も考えないとね。飲み水の確保は出来たけど。」 とジャイが言った。 食糧は日持ちしそうな物だ。でも、近い内に尽きる。 「アンデス山脈の墜落事故みたいな事になるもの勘弁だしね。」 「何それー」 と聞くゆうぞうに、そんな事も知らないの?と言うような顔で、面倒臭そうにジャイが答えた。 「俺達が生まれた頃の話なんだけどさ、あ、今野君はまだこの世にいなかったか。 アンデス山脈に飛行機が落ちて、奇跡的に生存者が何人かいたんだけど、救助隊が来る迄に二ヶ月位かかってね。 その間、餓死したりした人の死体を食べて、生き延びたって話。」 「嫌な事言うなあ、この人。」 と高橋が言った。 地図を見れば、どこへ行けば食糧がありそうかは、わかる。でも、当然それがわかるのは自分達だけじゃない。行けばそれだけ、リスクもある。 「でも万が一そうなったら、キングさんの方が有利だよね。ゆうぞうなんて、特に食べでありそうだし。脂身も多いけど。」 ジャイは何時もの、無邪気とも馬鹿とも取れる様な笑顔で言った。 「やだよー、ジャイさんは、ヤニ臭そうだし。」 そういう問題では無い事位高橋もわかっていたが、リアルな話だからこそ、そう言って流したかった。 ある意味、今の状況に似ている。適格者が生き延び、不適格者には死があるだけだ。 誰が適格者で誰が不適格者か、自分達が適格者か否か。 流石に食われはしないだろうけど。と、高橋が思いかけた時、 「しっ。」 ジャイが人差し指を立てて唇に当てた。 「誰かいる、窓の方に...否、窓の方からドアの方に回ってきた。」 明らかに風が立てたのではない、茂みを掻き分ける音が聞こえた。警戒をしている様子も感じられない。かなり大胆な、相当自信のある奴だ。 「一旦窓から外へ出よう。」 五人は素早くナップザックを背負った。高橋と今野は拳銃を持っている。テーブルの上の武器...ジャイはプラスチックケースに入った注射器を、ゆうぞうは出刃包丁を、スギはI字型磁石を掴んだ。 ドアの対面にある窓は、外側へ左右に開けば、一度に二人は出る事が出来る。 先ずスギと今野が外に、それからゆうぞう、そしてジャイと高橋が外に出ようとした時、その誰かは勢いよくドアを開け、無言でサブマシンガンの引き金を引いた。 「パンパンパンパンパン...」 幸い高橋は無傷で外に逃げられた。ジャイも、流れ弾が左手の甲を掠っただけで...磁石に襲撃された時よりは深手だが...致命傷を負う事は無かった。 「二手に分かれて逃げよう。」 ジャイはそう言った。 襲撃してきた奴が、ドアの方から窓の方へ追って来る迄に若干のタイムラグがある。が、それから先の事を話し合う程の時間は無い。 そして今野・スギ・ゆうぞうと、ジャイ・高橋の二手に分かれて、それぞれ逆の方向へ走った。 「ちっ、逃したか。カンの良い奴め。」 はなわが窓の方へ回り込んだ時には既に、五人の姿は無かった。 深追いは、辞めておくか。少なくともサブマシンガンレベルの武器は持って無さそうだったし。 と、一瞬思ったが、ある事に気付き、走り出した。 ジャイと高橋が逃げていった方向へ。 あれは、はなわさんだったな。それにしても...糞、どこ迄逃げたらいいんだ。 ジャイは茂みを抜け、その脇の小道を走り続けた。もう息が上がっていた。左手も、激しく疼いた。 普段タバコばかり吸ってるから、すぐ息が上がるんだ、畜生! この時点で、ジャイは二つ、ミスを犯していた。 一つは何時の間にか高橋と逸れていた事。 これはすぐに気が付いた。 高橋さん、ごめん。でも、俺にはスギとゆうぞうの命もかかっているんだ。何とか高橋さんも無事に逃げてくれ。 そう、祈るしかなかった。それに、拳銃がある分、まだ自分よりは有利だろうと。 そしてもう一つのミス...高橋と逸れた以上の致命的なミスには、気が付かなかった。 はなわは茂みの中の、葉や地面に付いた血を頼りに、走った。 ジャイの左手から滴り落ちる血、それが彼の通り道をマーキングしている事に本人は気付いていなかった。 だから途中でジャイと逸れた高橋は、実はラッキーだった。 血の跡は茂みを抜け、小道の上に、ジャイが走った足跡の様に、付いていた。 この道の先は確か... はなわはニヤリと笑った。 後は、血を頼りに、追うだけだ。 小道は途中で途絶え、目の前には人の背丈より高い茂みがあるだけだ。 ジャイはその先へ行こうと茂みに飛び込んだ。 「!」 地図をよく観ればわかった筈なのだが、そんな余裕は無かった。茂みの向こうは、断崖絶壁の崖だった。 あともう少し、勢いよく飛び込んでいたら、落ちていただろう。 そう高い崖ではない。崖の下の様子も、よく見える。底に横たわる白骨死体は、多分、このゲームでの死者ではなく、以前この島に住んでいた人なんだろう。 崖の下迄そう高さは無いが、底が地面ならまだしも、岩場だ。飛び降りて安全とは思えない。 崖に、取っ掛かりになりそうなものは無く、その辺の知識が無いのでよくわからないが、ロッククライマーでもかなりハードルが高いのではないだろうか。 道の脇の茂みの中へ逃げ様とした時、足音が聞こえた。 「渡辺だろ、そこにいるの。」 はなわの声だ。 「ここで、血の跡が途絶えているからな。それに、この辺の地理は、よく調べて、頭の中に叩き込んであるんだ。」 しまった! ジャイはやっと、自分が犯したもう一つのミスに気が付いた。 「お前らとは、よくライブで一緒になったよなあ。だから特別に選ばせてやるよ。俺に撃ち殺されるか、その崖から飛び降りるか。」 サブマシンガンで撃たれたら、確実に死ぬ。崖から飛び降りても、多分、運が良くても致命傷、カラスの餌になるのを待つだけだ。そこの、白骨死体の様に。 命乞いをして、助かる相手なら、幾らでもする。死ぬのは自分一人じゃない。でも、今のはなわに命乞いはするだけ無駄だ。 ジャイの全身に、冷たい汗が流れた。 「今からカウントダウンしてやるよ。5...4...3...」

蛙 ◆GdURz0pujY 本編  進む

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