何処までも続いているかのように感じる長い川に、綺麗な透明の水がさらさらと流れている。 そこに、バケツを持った山根(アンガールズ)が走ってきた。 友近の傷は何とか塞いだものの、その傷口が熱を持ってしまい、足首が赤く腫れてしまったのだ。 その為に冷たい水が必要になり、田中とのじゃんけんに10回のあいこの末負けてしまった山根が一人で水汲みにやってきたという訳だ。 「はあっ、はあ…疲れた〜…。」 がらん、とバケツを放り投げると川沿いに座り込んだ。 思ったより早く水のある場所が見つかったし、ちょっとゆっくりしていこう…。 懐から煙草を取り出し、口に咥え火を付ける。 「う、っめぇ〜…!」 幸せそうにぎゅっと目を瞑り真っ白な煙を吐き出す。 スズムシの声と、星の光と、小川のせせらぎと、煙草の煙で体力回復。一瞬だけ、山根の心から『恐怖』の二文字が無くなった。 「あ〜……喉乾いたな」 喉を押さえて身を乗り出すと手のひらで川の水を掬いあげ、それを飲み干す。 冷たい天然水はボンヤリしていた頭の思考回路を一気に覚まさせた。 走って来たことで喉がカラカラに乾いていた事もあり、続けて何度も掬って飲む。すると、 「にゃあ」 「…………んぉ?」 山根の隣に寄り添うように、一匹の黒猫が歩み寄ってきた。 金の瞳をきらきらと輝かせ、もう一度綺麗な声で鳴く。 「猫…?こんなとこにまで居んのか。」 その猫の頭をゆっくりと撫でる。 暫くすると猫は山根の手をすり抜けて川の水に口を付け、ぴちゃぴちゃと飲み出した。 「ああ、お前も喉乾いてたんだな。」 くすくす笑うと、猫の隣にしゃがみ込んでバケツに水を汲んだ。 あまりたっぷり入れすぎるとまた喉が渇いてしまうかもしれないから半分しか入れなかった。 水を入れ終わっても猫はまだ飲んでいる。よっぽど喉が渇いていたのか、それとも空腹を紛らわす為だろうか。 山根はポケットを漁った。収録の合間に食べようと思っていた二枚入りのビスケットの袋が出てきた。 それを猫の側にこっそりと置いてやった。 「おーい猫、悪い人間に鉄砲の的にされんよう気ぃつけよ。」 そっぽを向いたまま水を飲み続ける猫に小さな声で忠告する。 「…よしっ」 ふーっと息を吐き、腕捲りをして細い腕で重いバケツを持ち上げる。 ふらふらと危なっかしい歩き方だった。途中で何度も水をぶちまけそうになるも、少しずつ、確実に田中たちの待つ建物に向かっていった。 道のりの途中で何度も銃声を聞いた。あの、レギュラーの放送も。その度に足を止め、座り込んで耳を塞いだ。 「うう…俺ら…只の芸人やのに…。…死にとうないわぁ…っ」 悲しくは無かった。むしろ、一瞬嬉しいとまで感じた。 このまま自分たちに気付かずに勝手に殺し合ってくれたら。もしかしたら生き残れるかもしれないと思ったのだ。 「はは…最低やな、俺…」 自嘲めいた笑みを浮かべ、項垂れる。 そんな山根の後を付けてくる小さな影があった。 「おー、山根お帰り〜!」 「俺もう絶対行かんから…」 にこやかに手を振る田中をキッと睨み付け、息も絶え絶えな山根は中に入ってくるや否やバケツを渡してその場に座り込む。 「あらー、山根君どうしたん?可愛い子連れて来ちゃってぇ」 芝居がかった口調で友近が言った。 「え?何?」 「にゃあ」 山根の背に、さっきの黒猫がすり寄ってきた。 「あれ…ついてきたみたい。」 「や〜、ほんま可愛いわあ。」 「俺も俺も。触らせて!」

女子高生のように田中と友近が目敏く寄ってくる。この島で飼われていたのだろうか。猫は全く人間を怖がろうとしなかった。ごろごろと喉を鳴らし、みゃあ、と甘い声で鳴く。三人とも、思わず顔が綻び、笑いあった。 再びまったりとした幸せな空気が流れた。

「随分と楽しそうじゃないですか。」

山根の背後から、何者かが銃を突きつけてきた。 「山根……あ!」 よく知ったその人物の顔に、田中が目を大きく見開いた。友近がさっと猫を抱き寄せる。 背を向けているせいで山根はその男の顔が分からない。ただ、自分の頭に堅いものが押し当てられているのは分かっていた。 目を堅く閉じ、今にも泣きそうな表情だった。 「いいなあ、こんなに仲間がいて。…俺には…何も、無いのにさぁ…」

男が顔を俯けてると、長い髪が覆い被さった。肩が震えている。泣いているのか、笑っているのか。 田中も友近も、山根も。身動き出来ず息を呑んだ。 山根に銃を押しつけたまま、男―――阿部智則は独り言のように続けた。 「吉田も、陣内さんも、何でみんな俺を嫌いになる…?俺は正しいのに、…何が足りないんだ…」 やばい。死ぬかも。田中の頭にそんな言葉がよぎった

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