長井秀和と折り重なるようにして倒れる青木さやか。 それを見て嘆く波田陽区。 二人の死を嘆いているのではない。 二人を先に殺されてしまった事に彼は嘆いているようしか見えなかった。 そんな波田陽区を背後から見ている二つの影。 冷静な表情で波田陽区の後ろ姿を見据えるのは東京ダイナマイト、松田大輔。 そんな松田の冷たい目と目の前で起こっている現実に震えるハチミツ二郎。 しかし彼はあまりリアクションを表に出さないために震えている事など相方ですら気付かなかった。 波田陽区が去るとすぐに飛び出す松田。 その目は元相方、青木さやかだけを見ていた。 「…仇…とってやるからな…」 周りを警戒しながら恐る恐る影から出るはちみつ二郎。 「どうする?」 「やるしかないんじゃないの?」 はちみつ二郎が無表情に問うと松田は当たり前とばかりに即答。 「やるっていったってさー…」 「二郎ちゃん、何持ってる?」 「鍋の蓋」 「おいおい使えねぇなぁー」 松田の乾いた笑いが場に広がる。 はちみつ二郎の背後で足音がした。 「ねぇ、誰か…誰かいるの…?」 怯えきったような女性の声。 いつもと違う雰囲気の声だが間違いない、と松田は確信した。 スタジオとは違う普通の女の子の顔をした摩邪がそこには立っていた。 松田がにわかに妖笑を浮かべるのをはちみつ二郎だけが見た。 そして、はちみつ二郎だけが知っていた。 松田の後ろに隠された手が日本刀の柄を握っているのを。 現状に混乱している摩邪には気付く余裕が無かった。

*東京ダイナマイトで参戦

コンビはいいな。二人で。私はピンだから一人。他のピンの人は大丈夫かな。 長井さん、青木さん、波田さん、だいたさん、はなわさん… あの人たちを仲間に出来れば心強いんだろうな。 ・・・一人は嫌・・・ 東京ダイナマイトと出会う前、摩邪は洞窟に隠れてじっとしていた。 横に散らばる少しの食料と包丁。 恐る恐る包丁に手を伸ばす摩邪。 「駄目・・・出来ない・・・」 すぐに包丁を手放す。 「殺すなんて出来ない・・・!死ぬなんて出来ない・・・!」 頭を抱えてはっとする。 「きっとみんな同じ思いだよね。まさか殺し合いなんて・・・」 遠くで爆音と悲鳴が聞こえる。 慌てて耳を押さえる摩邪。 「嘘・・・嘘だよ・・・殺しあうとかありえない・・・!」 耳を押さえて首を振るが何も変わらない。 彼女はいつ殺されるかわからない状態。精神的に戦力はゼロ。 『皆ー!!僕らの話を聞いてー!!』 彼女にとって心地の良い関西弁が響く。 「・・・レギュラー・・・?」 『僕ら戦う必要なんかないはずや!!皆ー!僕らのとこまで来てー! 仲間になって、皆で一緒に生き残ろうー!!』 表情を明るくする摩邪。同じ思いの人がいるという事が彼女の勇気になった。 これでみんな安心する。 しかし、無謀にも銃声が響く。 「なんで・・・?なんで終わらないの・・・?」 『銃なんて撃たんといて!!皆、僕らのとこまで来てー!!』 「そうだよ、放送室に・・・!」 摩邪は慌てて地図を出し放送室を捜す。 希望が見えた、そう彼女は思っていた。 しかし、無謀にもその希望はマシンガンの音と放送の切れる音に阻まれて消えた。 「やだ・・・殺されちゃったの・・・?」 彼女は怯えるように頭を押さえてうずくまった。 頬を流れる涙はレギュラーのために。 そして彼女は洞窟を出、東京ダイナマイトに出会った。 二郎には相方の動きが予測できていた。 しかし、摩邪がどうでるかは予測が出来なかった。 相方を見守るが吉か、はたまた殺人者となろうとしている相方をとめるべきか。 止めるのなら命がけでいかないと駄目だという事も彼は心得ていた。 「長井さん…!青木さん…!」 はちみつ二郎が葛藤しているうちに摩邪が先に動いた。 「どうして…何で…?」 がくっと膝を落として両手で顔を覆う摩邪。 「私たち芸人だよね…?人を笑わせるはずの芸人が何でこんな事しなくちゃいけないの?」 この回答を持っている者は恐らく誰もいないであろう、松田はそう思っていたが答えなかった。 「こんな事して誰が笑うの?私はこんな事したくてこの道を選んだんじゃない!」 摩邪の言葉は痛いくらいに二郎に響いた。 松田にも届いていたのだと思う。 「…だからこそ俺は生き残る」 膝をつく摩邪に向けられた松田の冷たい視線と冷たい日本刀の刃先。 「人を殺して人を笑わせる事なんて出来ると思ってんの!?」 ヒステリックに叫ぶ摩邪。はちみつ二郎はただその場を見守る事しか出来なかった。 「…誰だって望んじゃいないさ」 「じゃあ何で長井さんや青木さんが…!」 「生き残るためだ」 「みんなで生き残る手だってあるじゃない!」 「レギュラーの二の舞になりたいのか?」 摩邪の脳裏でレギュラーの心地良い関西弁とマシンガンの音が交差する。 「レギュラー以外にもいるよ!きっと・・・戦いたくない人が・・・」 松田の日本刀を掴む手の力が徐々に弱まる。 「芸人として人を笑わせたい気持ちはみんな一緒だもん!」 まるで子どものような言い方だが二人には理解出来ていた。 「二郎ちゃん、行くぞ」 「え?」 「殺る気失せたわ」 日本刀をしまいながら摩邪に背を向けて歩き出す松田。戸惑う摩邪と二郎。 「私も連れてって・・・!」 「どっかに隠れてな。今のあんたは足手まといだ」 摩邪はそれ以上何も言えなかった。 一人その場に残された摩邪。 「・・・私も殺るしかないのかな」 彼女の手にはしっかりと包丁が握られていた。

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